宮城県沖地震44年 進まぬ耐震化 被害相次ぐ

 28人が犠牲となった1978年6月の宮城県沖地震は12日、発生から44年となった。東日本大震災以降も大きな地震が相次ぐ中、今年3月に宮城、福島両県で最大震度6強を観測した地震では、大型ホールの天井板落下や断水といった被害が目立った。12日は「みやぎ県民防災の日」。改めて人命や生活を守る備えを確かめたい。

客席の広い範囲に天井の部材が落ちた白石市ホワイトキューブのコンサートホール=3月31日(市提供)

仙台市体育館、ホワイトキューブ、大型ホールで天井落下 コスト増で復旧足踏み

 宮城県沖地震を受け1981年に導入された新耐震基準に伴い、建物本体の耐震化が進んだ一方、天井などの非構造部材の耐震対策は遅れている。2011年の東日本大震災では音楽ホールなど大型文化施設の天井が落下。今年3月16日の福島県沖を震源とする地震でも学校体育館などで同様の被害が相次いだ。

 2畳ほどの大きな板が客席のあちこちに覆いかぶさっている。3月の地震で天井部材が落下した白石市ホワイトキューブのコンサートホール。地震から3カ月がたった今も被災直後の惨状をさらす。

 落下した部材は1片だけで約230キロもあった。市の委託で現地調査した日本耐震天井施工協同組合(東京)の塩入徹技術委員長は「地震発生が人がいない夜間でよかった」と話す。

 復旧工事が始まらないのは多額の費用負担がネックとなっているからだ。市まちづくり推進課の担当者は「音響を重視した造りになっており、復旧の工法で費用は大きく変わる。天井の耐震化も含めた改修が必要だが、市の予算だけで賄うのは難しく、国の支援次第になる」と悩ましい状況を打ち明ける。

 仙台市体育館(太白区)も天井板が客席に落下する被害があり、予定されていた東北大や東北学院大の卒業式が開けなくなった。

 市スポーツ振興課は「天井の耐震化には費用だけでなく、工期も考慮する必要がある」と、当面は復旧にとどめる方針だ。

 総合体育館はスポーツの試合、成人式や大学卒業式などさまざまな用途に使われる。耐震化工事で利用不可となると社会的影響が大きい。市内外の他の施設との調整も必要になるため「各施設が順次、大規模改修のタイミングで天井の耐震化も図るのが最適解」との考え方だ。

 とはいえ、大規模修繕のタイミングで耐震化工事を予定しても、工期前に被災すれば、結果的に長期にわたって利用停止を強いられる。耐震化が「待ったなし」の状況に変わりはない。

 それを印象付けたのが「イズミティ21」(泉区)の事例だ。1987年の開館以来初となる大規模修繕に合わせて今年4月、天井の耐震化を始める計画だったが、3月の地震でホールの天井材の一部が落下。予定の催しを全て中止し、休館となった。利用再開は早くとも24年春になる見通しだ。

 国土交通省などによると、東日本大震災では全国2000カ所以上で天井が落下。東京では九段会館で女性2人が死亡、20人以上が負傷した。宮城県内では県民会館や気仙沼市民会館、仙台市太白区文化センター・楽楽楽ホールなどで被害が相次ぎ、半年以上も利用できなかった。

 震災を教訓に国は14年、建築基準法施行令を改正。一定規模以上の建物のつり天井を耐震化するよう義務づけた。

3月16日の地震で被災した宮城県内の主な大型施設

水道管損傷、断水 耐震適合率は地域で開き

 大きな地震が起きるたび、各地で発生する断水被害。3月の地震では宮城県内18市町で最大約3万7000戸が断水した。県内の基幹的な水道管のうち、想定される最大級の地震に耐えうる割合を示す「耐震適合率」は2020年度末で46.4%。財政難で耐震化が進まない現状がある。

 3月の地震で発生した県内の断水では、栗原、大崎、富谷、大郷、涌谷、美里の6市町を中心に断水が発生した。いずれも県大崎広域水道の配水を受ける地域で、約3万2000戸と約85%を占めた。

 同水道では取水地点や浄水場、配水池などをつなぐ基幹管路の3カ所が損傷。いずれも敷設から40年以上たっており、1カ所は耐震適合していなかった。

宮城県内14市の基幹管路の耐震化状況

 県内各市町村の基幹管路の耐震適合率は0~100%と開きがある。各市の状況は表の通り。宮城県沖地震を教訓に耐震化を進めてきた仙台や岩沼、登米、富谷が70%を超える。

 市部で最も低い6.5%にとどまる栗原市は合併(2005年)前の旧10町村がそれぞれ整備した浄水場の多さが大きな要因。32カ所を21年度末で24カ所とし、今後16カ所まで減らす。担当者は「施設の統廃合で維持管理の効率化を進めながら、基幹管路の耐震化に取り組みたい」と話す。

 7.8%の白石市は、老朽化した水道管の漏水対策に重点を置く。担当者は「管の更新時期に合わせて耐震化を計画的に行っている」と説明する。

 町村部では大衡村が100%で、涌谷町が73.9%で続く。

 0%の村田町は「耐震化しなければいけない認識はある。財政的な問題で、各家庭に引き込む老朽化した枝管の更新を優先せざるを得ない」と明かす。色麻町も0%で、担当者は「今後の料金改定に合わせ、耐震化を進める」と話す。

 国は補助制度を設けるなどして基幹管路の耐震化を促す。20年度末の全国平均40.7%を、25年度末に54%、28年度末には60%以上とする目標を掲げる。

 宮城を除く東北では福島が最も高い56.3%。岩手48.1%、青森45.7%、山形43.0%と続き、秋田は24.7%にとどまる。全国トップは神奈川の72.8%。高知が23.8%で最も低い。

東京大大学院新領域創成科学研究科・清家剛教授に聞く 難しい補強策、国の支援必要

[せいけ・つよし]東京大工学部建築学科卒。同大大学院准教授を経て2019年から現職。専門は建築構法計画、建築生産。徳島県出身。58歳。

 -地震のたびに体育館や大型ホールの天井落下が相次ぐ。

 「2007年3月に石川県で震度6強を観測した能登半島地震の光景が忘れられない。天井が全面的に落ちた学校体育館を調査した。発生の24時間前に卒業式と廃校式があり、子どもら約200人がいた。開催中だったら確実に死傷者が出ていた。運よく人的被害を免れた事例は、全国に相当数ある」

 -どうして耐震化が進まないのか。

 「東日本大震災を受けて施行された天井についての国の新しい耐震基準は、14年以降に着工する建物について耐震化を義務づけた。それ以前に建造された高さ6メートル超、200平方メートル超の建物の多くは『既存不適格』の状態だ。ほとんどの学校体育館がこれに該当し、文部科学省や各自治体が対策を進めてきた。熊本県ではほとんどの小中学校の天井が撤去済みで、16年の熊本地震でも体育館が避難所として使用可能だった」

 「問題は、学校体育館よりも大きな総合体育館や音楽ホールなどだ。そもそも既存の天井部材を撤去するのは難しい。後から補強部材を足す際も、天井の重さが建物本体にも加わるため、最終的に建物全体の耐震補強をせざるを得ない」

 「撤去対策も正解とは言いがたい。音響効果が減る上、屋根に当たる雨音が館内に響く。演奏会や式典の会場としての使い勝手は極めて悪くなる」

 -それでも人命の安全には替えられない。

 「天井を耐震化するなら補強するか、新しい天井に交換するかの二択になる。ただ、多くの体育館や音楽ホールで使われている部材は新しい基準をクリアしていないため、交換を選ばざるを得ない。巨額の費用が掛かり、多くの自治体や施設所有者が二の足を踏む」

 「青森県立美術館では大きな美術作品を動かせないため、屋根裏のはりや壁から天井を支える部材で補強する方法を選んだ。その分、工期も費用も増大したとみられる。多くの場合、補強は選択肢にならない」

 -国からの支援は得られないのか。

 「ある程度、自治体が自費で対策する事例が増えたことで、国がお金を出す理由がなくなりつつある。主要な避難所として使われる体育館の耐震化は、国が積極的に補助しないと、これ以上改善されないだろう」

 「被害調査をする立場からすると、大勢の人が使う場所なら、どこであろうと耐震化すべきと考える。例えば自治体単位で『対策済み宣言』を出すなど、地域全体で天井の耐震化を進める機運を盛り上げてはどうか。地震が頻発する東北なら期待できる」

関連タグ

河北新報のメルマガ登録はこちら

企画特集

先頭に戻る