「記憶の素描」(9)柘榴地図-石沢麻依(芥川賞作家)
ドイツで暮らし始めてから、私の舌は柘榴(ざくろ)に執着するようになった。日に褪(あ)せたような古びた赤い厚い皮にナイフを入れると、黒ずんだ赤い透明な粒が見えてくる。びっしりと詰まったそれをこそげ落としてゆくうちに、白い皿に重なる赤の断片は冴(さ)えたコントラストを見せる。皮を剥(む)く度に、指の腹…
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