パワハラ防止へ社風改革が必要 4月から中小企業も対策義務化

 職場で被害を受けた人が働けなくなったり、自殺に追い込まれたりするなど社会問題化するパワハラ。大企業に加え、4月からは中小企業にも対策が法的に義務付けられるようになった。ハラスメント問題に詳しい弁護士、対応に試行錯誤する東北の中小企業関係者に話を聞き、対策の要点を探った。(生活文化部・浅井哲朗)

トップのカラーが全体に影響

 まず話を聞いたのは、仙台弁護士会の神坪浩喜弁護士。パワハラ、セクハラ事件を多く取り扱い、職場での防止対策をまとめた著書も複数ある。

 「社長が絶大な権限を握る中小企業はトップのカラーが全体に浸透する。社長がパワハラ傾向だと社内全体がそうなりやすい」と注意を促す。

 国が示すパワハラの3要素と具体例は表の通り。その上で、神坪氏は職場で陥りやすいパワハラの五つのパターン(イラスト)を挙げる。

 大人げないいじめ行為は言語道断だが、本人も気付かずに繰り返しているケースがある。「残業が当たり前」といった競争主義や成果主義も被害を生む土壌とされる。

 パワハラの横行に労働者は困惑している。連合宮城に2017~21年に寄せられた労働相談のうち、項目別の最多は「パワハラ、嫌がらせ」。年300~400件の相談の約2割を占めた。被害者は女性が多く、21年は男性の4倍。職種では医療、福祉分野が目立つという。

 「社員を物扱いし、全体的に上役の意向を忖度(そんたく)する雰囲気があれば危ない。社長が率先して社内風土を変えることが重要」と神坪氏。「頭ごなしでなく、言葉を介した相互理解があるかどうかが指導との分かれ道になる」と強調する。

社員が萎縮すれば業績面で損失も

 時に業務指導との線引きが課題となるパワハラ。仙台弁護士会で自死予防対策特別委員長を務める土井浩之弁護士は、指導時の代表的な禁句として「昔はもっと厳しかった」「もう教えない」「なぜこんなこともできないのか」を挙げる。

 全国で精神障害を患って21年度に労災認定された629件のうち、原因別では「パワハラ」(125件)が最多となった。土井氏によると、心を病む被害者には「責任感と正義感が強い」「能力が高い」「攻撃されても、やめてと言えない」などの特徴があり、心理的ダメージの根底には「仲間として扱われないことへの失望」があるという。

 パワハラの発生は「10人未満の営業所など、上司が部下をコントロールしやすい職場が構造的なリスクを持つ」と土井氏。国は企業に対策を求めるものの、中小が対応するのは容易ではない。人手不足や新型コロナウイルス感染拡大などで経営環境は厳しさを増しており、「人的にとてもパワハラ対策まで手が回らない」(名取市の食品製造業社長)のが現状だ。

 職場環境の改善に向け、土井氏は経営者に発想の転換を求める。「パワハラのまん延は社員の萎縮につながり、言われたことしかできず業績が伸びなくなる点で大きな損失と言える」。生産性の維持・向上、企業の持続可能性の観点から積極的な取り組みを促した。

[メモ]2020年6月施行の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が、指針で企業に義務付けるパワハラ防止措置は10項目。禁止方針の周知、相談窓口の整備のほか、被害者、加害者への適正な対処などが含まれる。関係者のプライバシー保護、相談者が解雇など不利益な扱いを受けないよう定めることも求めた。

パワハラ防止の張り紙を指さす鬼沢さん。「上に立つ者が率先垂範しなければ、社員はついてこない」と語る

職人の世界も変革に挑戦 仙台の塗装店でルール周知 

 「人格否定は厳禁」「ため息など、後輩の『やる気ドロボウ』はやめよう」「ありがとう、おはようを言おう」

 仙台市太白区の塗装業「鬼沢塗装店」。社員の目につきやすい場所に「先輩五つのルール」と題した張り紙がある。パワハラや若手社員の早期離職対策として、社長の鬼沢竜治さん(46)が昨年夏から本格的に始めた取り組みの一つだ。契約する職人を含め、従業員約60人への周知を図る。

 入社数年で退職する若手が後を絶たないことに危機感を募らせていた鬼沢さん。上司の厳しい言葉が原因で辞めた社員もいて、ショックを受けた。「辞めたくて入社する人はいない。うちも全員で考えなければ」。経営側、上司側の意識改革が必要だと考えた。

 山形市で祖父が始めた塗装店に生まれ、父や兄と同じ塗装職人の道を歩んだ。住宅メーカー勤務を経てのれん分けしてもらい、会社を興した。時に理不尽とも思える先輩や取引先の態度にも耐え、地道に顧客を開拓した。

 上意下達の職人の世界。それが当たり前と思っていたが、「『ついてこられなかった者の方が悪い』は経営者のエゴ。自分の意識の低さが若手の退職につながっていたのでは」と思い直した。妻で専務の優子さん(50)を相談窓口担当に任命。幹部社員に、加盟するフランチャイズグループが設ける管理職向けマネジメント研修を受講させた。

 取り組みの結果、社内で後輩を怒鳴る声が聞こえなくなるなど変化も感じている。パワハラは根絶したいが、気楽に言葉も交わせないような息苦しい環境にはしたくないという鬼沢さん。「少しずつ良くしていくしかない。若手を育てるには8割褒める、2割厳しくぐらいの感覚が必要だ」と力を込めた。

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