「記憶の素描」(11)遠い海に浮かぶ影-石沢麻依(芥川賞作家)
海の上に真っ直(す)ぐ延びる木の道。バルト海に面したグレーミッツの砂浜から沖に遠く続く桟橋に足をのせると、ああ潮の匂いだ、と思わず声がこぼれた。旅の同行者であるCもまた、嗅覚の追憶に身を委ねている。次第に濃くなる潮の香りは、穏やかな海が視界を占めた途端に全身を包み込み、身体の奥から遠い海の記憶をも…
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