台風10号岩泉豪雨6年 国動かした教訓胸に刻もう 社説(9/1)

 豪雨などの災害時に市町村が発令する「避難勧告」が「避難指示」に一本化され、1年余りがたった。発令判断の難しさや住民への浸透など課題は残るが、情報をシンプルにして避難を強く促す意義は大きいだろう。

 過去の豪雨災害で逃げ遅れが多発した教訓から導入された。その一つが、2016年8月に岩手県沿岸を直撃した台風10号だ。被害が甚大だった岩泉町では関連死を含めて26人が犠牲になった。

 国が避難情報の見直しに乗り出すきっかけとなった災害から6年がたった。尊い教訓を改めて胸に刻みたい。

 台風10号は16年8月30日夜、大船渡市付近に上陸した。岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」が小本川の濁流にのまれ、70~90代の入所者9人が亡くなったことが痛ましい記憶として残る。

 台風接近時、当時の町長が川の水位を確認し「大丈夫だろう」と判断。その後、役場は急激な増水を訴える住民からの電話対応に追われ、避難勧告は出されなかった。

 町は勧告の前段である避難準備情報は全域に出していた。ところが、ホームを運営する法人は「要援護者の避難を促す」との定義を理解していなかったため対応が遅れ、悲劇は拡大した。

 この反省から内閣府は17年、避難準備情報の名称を「避難準備・高齢者等避難開始」に変更。避難を求める直接的な表現になったのは、これが初めてだった。

 18年7月の西日本豪雨では避難指示も相次ぐ中、犠牲者200人以上という平成最悪の豪雨災害を防げなかった。情報の種類が多く分かりにくいとの指摘もあり、現在は危険度に応じた5段階の警戒レベルが運用されている。避難勧告が指示に一本化されたのも一連の改善の結果だ。

 それでも課題は尽きない。内閣府が昨夏の豪雨災害を受けて市町村に実施した複数回答のアンケートでは、66%が「土砂災害の危険度分布や河川水位が刻々と変わるため判断が難しい」と答えた。「空振りになれば、かえって避難指示の効果が薄れる」との回答も63%あり、情報を出す際のためらいがうかがえる。

 同府の有識者検討会は、発令対象地域を絞り込むことで住民も「わが事」だと感じると指摘。自治体に助言する気象台OBなどの「気象アドバイザー」による支援を増やす必要性を強調した。

 そうした支援の充実は国の責務である。市町村によっては、経験や技術のある職員が不足しており、判断が難しいケースもあるという。不断の改善が一人でも多くの命を救うことは自明の理だ。

 今年も東北、北陸地方を中心に記録的な大雨による災害が相次ぐ。6年前、岩泉町で起きたあの悲劇を忘れまい。痛ましい教訓を「自らの命は自らが守る」という意識につなげなくてはならない。

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