災害とデマ ネット社会の心構えが大切 社説(9/2)

 10万5000人余りの犠牲者を出した1923年の関東大震災の発生から、きのうで99年となった。これまで伝わるさまざまな教訓や知見の一つに、混乱時に流布される流言、デマの危うさがある。

 この震災で、デマにより多くの朝鮮人らが虐殺された事実を忘れてはならない。過去の負の歴史を直視し、教訓を再発防止にどう生かすのか。災害時のデマが深刻な事態をもたらす恐れがあることを改めて胸に刻みたい。

 関東大震災に関して、国の中央防災会議が報告書(2008年)をまとめている。それによると、地震発生は正午前で、当日の午後には警察が「朝鮮人による放火、暴行があった」などの流言を把握している。

 その後、「井戸に毒を投げ込んだ」といったデマが増殖し、朝鮮人や中国人の虐殺につながった。警察が殺人罪で立件した事件の被害者だけで233人。殺されたのは震災全体の死者の「1~数%」と報告書は推計するが、はっきりした人数は今もってよく分からない。

 事件の背景には「無理解と民族的な差別意識もあった」と報告書は分析する。非常時の緊張に包まれる環境で、人々が普段、潜在意識や無意識の層に抑え込んでいたものが浮上したのだろう。

 こうした災害時のデマ流布は、過去の問題だと片付けるわけにはいかない。

 東北学院大の郭基煥教授(共生社会論)は2016年、「被災地で外国人犯罪が頻発している」というデマを東日本大震災直後、仙台市民の半数以上が聞いたとする調査結果をまとめた。そのうち約86%が事実と信じたという。だが当時、外国人犯罪が増えたという事実はない。

 時代や地域が変わっても、言語や習慣、信条などを異にする人々はどんな社会にも存在する。在日外国人や少数者への偏見や差別、憎悪をあおる情報は災害時、特に注意を払う必要がある。

 また、16年の熊本地震では「動物園からライオンが放たれた」という書き込みが写真とともにツイッターに投稿され、被災地で大きな混乱を招いた。動物園には電話が殺到し、投稿した男性会社員が偽計業務妨害の疑いで逮捕された。

 災害などの混乱時、人々の不安定な心理につけ込む意図的なデマやヘイト言説の流布は許されない。一方で、未確認の情報をむやみに拡散しないよう、受け手側の姿勢も問われる。

 交流サイト(SNS)がすっかり日常に浸透している。有益な情報とともにデマも瞬時に広がっていく。真偽があやふやな情報を安易に発信したり、拡散させたりしない。そうした心構えが今、より求められている。

 私たち一人一人が、ネット社会にふさわしい情報の危機管理を高めたい。

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