防衛費要求5.5兆円 「反撃能力」慎重な議論を 社説(9/4)

 中国本土まで狙える長射程ミサイルの量産化など、敵基地攻撃能力を改称した「反撃能力」の保有を織り込み、最終的な予算は6兆円代半ばが視野に入るほど膨れ上がる見通しだという。

 「専守防衛」を逸脱する懸念もあるミサイル戦力の拡充は、本当に国民の安全につながるのか、際限のない軍拡競争を招かないのか。

 平和国家として歩んできた戦後の日本にとって、引き返せぬ一歩となる可能性がある。慎重な議論が不可欠だ。

 防衛省が2023年度予算の概算要求を決定し、5兆5947億円を計上した。これとは別に具体的な金額を明示しない「事項要求」も約100項目に達し、年末の予算編成では、さらに1兆円程度の積み増しが見込まれる。

 ロシアによるウクライナ侵攻や台湾を巡る米中対立の激化、北朝鮮の核・ミサイル開発など、日本を取り巻く安全保障環境は確かに厳しさを増している。

 ただ、今回は岸田文雄政権が掲げる「防衛力の抜本強化」の掛け声の下、財源も不透明なまま、事実上、青天井の要求となっていることに注意が必要だ。

 特徴的なのは、相手の射程圏外から相手拠点への攻撃が可能な武器の取得、開発を急ぐ姿勢が明確に表れている点だろう。

 21年度に開発に着手した地上発射型の12式地対艦誘導弾は、飛距離を百数十キロから1000キロに向上させた改良型の量産を開始する。

 艦艇、戦闘機から発射するタイプの開発も急ぐ方針で、南西諸島などに配備されれば中国沿岸部や北朝鮮を射程に収める。

 攻撃目標には、日本を攻撃する兆候のある敵のミサイル拠点だけでなく、制空権にかかわる対空レーダーや飛行場も想定されるという。

 日本が「反撃能力」と名付けていても、相手本土への攻撃手段である以上、相手側も日本本土への攻撃能力を高めようとするのは必至だ。

 日本が国是としてきた「専守防衛」は攻撃に対して必要最小限の自衛力を行使し、保有する装備も最小限にとどめるという原則だ。

 「矛」の力を米軍に委ね、自衛隊は「盾」の役割に徹するという従来の役割分担は一定の見直しを迫られているとしても、いたずらに周辺国との緊張を高めない慎重な配慮が必要だろう。

 「反撃能力」は本来、政府が年末に予定している国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に合わせ、保有の是非を判断するはずだった。

 今回の概算要求に表れた前のめりな姿勢は、十分な議論を経ずに保有を「既定路線」とする懸念がある。

 他国の脅威を意識し過ぎる余り、平和を守る道筋を見誤ってはならない。歴史の節目となる重要な予算だけに、国民的な議論が必要だ。

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