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北九州・黒崎の駅前特区、恩恵誰に? 「商店街に客流れない」 地元に不満、共存共栄の道は

国家戦略特区を活用してJR黒崎駅前のペデストリアンデッキで開かれた飲食イベント=8月、北九州市八幡西区(主催者提供)

 「国家戦略特区を使った駅前のイベントが開かれても、周辺の商店街に客が流れない。街の活性化につながっているのか」。西日本新聞「あなたの特命取材班」にこんな投稿が寄せられた。「駅前」とは、福岡県北九州市八幡西区のJR黒崎駅に面し、横断歩道橋と広場を兼ねたペデストリアンデッキ。通行以外の使用が制限される市道の位置づけだが、特区制度で開放されて2017年から「食」の催しが開かれている。同じ団体が道路占用料の減免を受けて主催しており、コロナ禍で店舗賃料の負担に苦しむ周囲の店に不満がくすぶる。共存共栄はできないのか-。

占用料を減免

 8月下旬、飲食イベント「肉肉パーク」がデッキで開かれた。ステーキや唐揚げなどを扱う福岡、山口両県の11店舗が並んだ。6日間、計約2万人の家族連れらでにぎわった。

 主催したのは、北九州市小倉北区在住の男性(37)が代表を務める団体。男性は「駅前で交通のアクセスが良い。周辺の人口も多く、黒崎の可能性を感じる」と期待する。

 特区の目的は「街のにぎわい創出」。イベントを行う場合は市に支払う道路占用料が10分の1に減免され、デッキの場合は1平方メートル当たり月額32円。全体面積の約2千平方メートルで単純計算すると、月額6万4千円となる。市によると、デッキでは20年度に12回、延べ129日間の「食」の催しが開かれ、主催者はいずれも男性の団体だった。

 デッキは駅や区役所と商店街を結び、人の流れが絶えない。商店街の飲食店主はつぶやいた。「こっちはコロナ禍の苦しい中で家賃を負担して営業しているのに、安く借りた一等地で地元以外の業者に商売されてはたまらない」

国のお墨付き

 なぜ、恩恵を受ける業者が限られているのか-。

 国家戦略特区は規制緩和の内容と、それを利用して事業を行う団体を自治体が区域計画に盛り込み、国が認定する仕組み。デッキは、計画段階から深く関わる男性の団体が認定されており、八幡西区役所の担当者は「本来は安全を優先すべき道路。男性の団体は国のお墨付きを得たので例外で、他の事業者からイベント開催の打診があっても断っている」と説明する。

 不満を抱く商店主からすれば、集客力の高い駅前の公共空間が「独占」されているようにも映る。男性は「商店街からもイベントに出店してもらうなど共存を図りたい」と言うが、商店街との連携は実現に至っていない。ある商店主は「デッキのイベントで駅前がにぎわっているのは確か。行政の仲立ちなどで商店街も潤う連携が図れないか」と話す。

高まる駅前需要

 どう駅前ににぎわいを生み出し、幅広く恩恵を受けられるようにするのか-。福岡市では博多駅前など12エリアが特区指定され、北九州市と同様に「イベント実施は認定団体に限定している」(福岡市)。ただ、認定団体は、まちづくり協議会や商業団体が中心となっており、地元との間で目立った摩擦は生じていないという。

 札幌市や神奈川県藤沢市では、駅前の地下通路やペデストリアンデッキを「道路」ではなく、「広場」と位置づける条例を制定。特区を使わず、イベント主催者が限定されない形での「にぎわい空間」の創出を図っている。

 九州大大学院人間環境学研究院の黒瀬武史教授(都市計画)は「高齢化や環境意識の高まりで公共交通の結節点である駅前の重要性は今後ますます高まる。通行の機能を確保した上で、公共性の高いエリアマネジメント団体が管理して多くの人に開放する活用が望ましい」と指摘する。
(西日本新聞・山本敦文)

[国家戦略特区]第2次安倍政権が成長戦略の一つとして掲げた、地域を限定して規制を緩和する制度。2013年12月に国家戦略特別区域法が施行され、「福岡市・北九州市」など全国13の特区が指定されている。国は自治体や事業者の提案を受けて規制緩和の特例措置を創設。特区ごとに国、自治体、民間事業者で策定する区域計画に特例措置の事業を盛り込む。今年10月現在、道路の占用基準の緩和など408事業が実施されている。

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