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出産時の脳性まひ補償制度 改定後も「置き去り」多数 旧基準の子は救済対象外

 出産時に何らかの原因で重い脳性まひになった子どもに総額3000万円を補償する産科医療補償制度が1月に改定され、補償対象基準が緩和された。だが、2021年末までの旧基準で対象外となった子どもは改定後も救済されない。「大勢が置き去りにされている。平等に救ってほしい」。親の切実な声が「読者とともに 特別報道室」に届いた。

自宅で禾絃君と過ごす猪狩さん。「目の前の子を救ってほしい」と訴える

500人分賄える剰余金あるのに…

 対象外の子どもの保護者ら全国の約140人でつくる「産科医療補償制度を考える親の会」会員で、いわき市の猪狩美奈子さんは特別支援学校5年の長男禾絃(かいと)君(11)を妊娠29週で帝王切開で出産した。出産時の体重は1465グラム。禾絃君は歩行できず、座位保持いすや車いすで生活する。

 旧基準では妊娠28~32週未満の場合、出生時の低酸素状況を確かめる個別審査が必要だった。猪狩さんは「低酸素状況を示す数値が基準をわずかに上回り、補償を受けられなかった」と振り返る。

 盛岡市の種子(たねこ)千里さん(33)は特別支援学校2年の長女凜心(りこ)さん(7)を妊娠29週で帝王切開、体重1200グラムで出産した。病院が低酸素を示すデータを残さず、個別審査を通らなかった。「補償があればバリアフリーの家を建てるなど介助の負担が軽減され、心の余裕も生まれるのに」と胸の内を明かす。

 補償の壁となってきた個別審査は1月の制度改定で「医学的な合理性がない」として廃止された。制度を運営する日本医療機能評価機構(東京)によると、対象外の事例の99%が近年の分析で「分べんに関連した発症」と分かり、審査の必要性がなくなったためだ。対象外とされた多くは、現基準なら対象になる可能性がある。

 親の会の会員を一層やりきれなくさせるのは、制度の剰余金が約635億円に上ることだ。会はこれまで約500人が個別審査で対象外になったとみており、全員を救済できる約150億円を十分賄える。

 「新たに税金を投入するわけでもないのに、駄目なのだろうか」と種子さんは言う。機構は「福祉のような一律給付ではなく、出生年ごとに妊婦と医療機関が契約する保険制度であることを理解してほしい。剰余金は未来の子どものために使われる」と強調する。

 制度改定を巡り、後藤茂之厚生労働相は6月の記者会見で「補償基準はその時点での医学的知見や医療水準を踏まえて定められている。(改定前への)遡(そ)及(きゅう)は想定されておらず救済は難しい」との見方を示した。

 親の会は今月5日、遡及適用にこだわらず救済を求める要請書を厚労省に提出した。猪狩さんは「未来の子どもも大切。けれど今、目の前にいる子どものことも見てほしい」と訴える。(庄子晃市)

[産科医療補償制度]2009年に国が創設し、日本医療機能評価機構が運営する。15~21年に生まれた子どもに対する旧基準は「先天性の除外」「脳性まひの重症度」に加え、(1)妊娠32週以上で出生体重1400グラム以上なら対象とする(2)28~32週未満の場合は個別審査で判断する-と定めていた。

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