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地名に「天皇」なぜ? 富山・砺波のホテル 探したら仙台・泉にもあった

 「ロイヤルホテル富山砺波の地名に『天皇(てんのう)』が入っている理由を知りたい」。北日本新聞「あなたの知りたいっ!特報班(知りとく)」に、こんな投稿が寄せられた。ホテルの住所は富山県砺波市安川字(あざ)天皇。調べると、室町時代に戦乱を逃れてこの地に来た親王に名付けられたという伝承が、地元に残っていた。

のどかな丘陵に立つロイヤルホテル富山砺波

 ロイヤルホテル富山砺波は2000年の「とやま国体」に向け、1998年3月に開業した。山あいの小高い丘にあり、宮永陽子総支配人(48)は「眺めが自慢」とほほ笑む。

 同ホテルによると、砺波市安川地区で他に『字天皇』を使う施設はない。宮永支配人は「地名を意識して建てたわけではないが、お客様に『珍しい』『立派な住所』と驚かれることはある」。地名は会話のきっかけになっているという。

 日本地名研究所(神奈川)によると、「てんのう」と読む地名は全国にあるが、多くは「天王」と書く。スサノオノミコトと同一視され、疫病よけの神として平安時代に信仰が広がった「牛頭天王(ごずてんのう)」を祭る神社があったことを由来とする。「天皇」と書く地名は珍しいようだ。

最上階の客室からの眺めを紹介する宮永総支配人=ロイヤルホテル富山砺波

 砺波市安川地区は、1889(明治22)年の合併までは独立した村だった。安川村史編さん委員会が2005年にまとめた郷土誌「わが郷安川」には、地名にまつわる伝承が記されていた。

 「室町時代中期、淳良(あつなが)親王が京の戦乱から逃れ、安川に仮の宮殿を設けた。親王は東の丘で白雲や白雪に覆われた山々を眺め、この地を『天野』と名付けた。現在は『天皇』と書く。親王は3年暮らした後、この地で殺害された」

 淳良親王の名が皇族の系譜にないことを理由に、郷土誌には「実在性が疑われている」と記載されている。一方、荘園の支配を巡って京の公家が越中で殺害された史実があり、この伝承は公家の殺害を基につくられたとする可能性も示されている。ただし、そう考えても整合性の取れない点が残るため、郷土誌は由来について「未解決の部分が多い」と結んでいる。

ロイヤルホテル富山砺波から見える山々

 日本地名研究所理事の中葉博文さん(65)=富山県氷見市=は「字の名はその土地の自然や歴史を一番よく表している」とした上で「由来は一つではなく、結論付けるのは難しい」とする。安川地区の伝承を記した郷土誌については「地元の人たちがよく検証し、まとめている。真実に近いと考えていいのではないか」と話した。
(北日本新聞・松下奈々)

北日本新聞の取材を元に作成

東北と四国にも 皇族滞在や神社に由来

 全国で地名に「天皇」が入っている場所を探したところ、宮城県と四国の3県の計4カ所を見つけた。太平洋戦争中に「恐れ多い」として改称し、その後、元に戻した場所もあった。

 4カ所は、宮城県仙台市泉区野村天皇▽愛媛県西条市福武甲天皇▽香川県高松市林町字天皇▽徳島県つるぎ町半田字天皇。市町村の中の小さな区画の名前「小字(こあざ)」で、自治会名になっているケースもあった。

 仙台など3カ所は、牛頭天王を祭る神社があったことを由来とする。ただ、その多くは明治期の廃仏毀釈(きしゃく)で姿を消し、地名のみが残っている。

 徳島県には、富山県砺波市と同じく皇族が滞在したという伝承がある。1944(昭和19)年に「天野(てんの)」に改称したが、その後、他の土地とまぎらわしいとして元に戻した。

各地域の由来は以下の通り。
▽宮城県仙台市泉区野村天皇
 仙台市博物館によると、江戸時代にこの地にあった牛頭天王(ごずてんのう)社が由来。現在は須賀神社に変わっている。小字として残っている。
▽香川県高松市林町字天皇
 高松市によると、林町は1958(昭和33)年に合併された。林町史によると、この地に疫病退治を願う牛頭天皇社があったことが由来(こちらでは天王でなく天皇と書く)。神社は明治の廃仏毀釈(きしゃく)で姿を消したが、字名として残り、自治会の名前としては現役。明治末期までは天皇社の痕跡があった。
▽徳島県美馬郡つるぎ町半田字天皇
 つるぎ町によると、牛頭天王をまつっていたことが由来。江戸時代までは「天王」だったが、明治に入り「天皇」と書かれるようになった。1944(昭和19)年に「恐れ多い」として「天野」に改めたが、その後、別の地名とまぎらわしいとして再び「天皇」に戻した。
▽愛媛県西条市福武甲天皇
 西条市によると、保元の乱(1156年)で讃岐(さぬき、現香川県)に流された崇徳上皇がこの地を訪れ、行宮(あんぐう)を造ったことが由来。現在は天皇社が残る。字として残り、自治会の名前としては現役。※行宮=天皇の一時的な宮殿

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