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山岳遭難の85歳はなぜ97時間後に助かったか〈捜索編〉 キノコ採り名人は名人を知る

 仙台市青葉区芋沢の山中で9月末、キノコ採りに出かけて行方不明となった85歳の男性が、生存率が著しく下がる「72時間」を超える97時間後に救出された。4日間、飲まず食わずだった男性を救ったのは、捜索に加わったキノコ採りの習性を熟知した「名人」の存在だった。

捜索活動に尽力したキノコ採り名人の庄子さん(左)。右は共に捜索に当たった地元消防団の伊藤和彦さん=仙台市青葉区芋沢

 行方不明になったのは青葉区芋沢の無職佐藤一栄(かずえい)さん。9月27日、近くの山林に出かけたまま帰宅せず、家族が同日夜、仙台北署に届け出た。

 同署と市消防局などが28日から約50人態勢で捜索した。山中で佐藤さんのバイクが見つかったが、手がかりはそれだけ。29、30日もほぼ同じ態勢で捜したが見つからなかった。

 一般的に人間が水を飲まずに過ごせる限界といわれる「72時間」はむなしく過ぎた。10月1日は警察と消防が態勢を縮小。代わりに地元住民が加わった。その中に庄子時男さん(63)の姿があった。

 「キノコ採り名人」と呼ばれ、30年以上前から周辺の山に入っていた庄子さん。前日、キノコ採り中に捜索隊と出くわし、苦境を知って協力を名乗り出た。1日の捜索は午前8時半に始まった。

働いた勘「キノコ採りが通る道はここだな」

 捜索するエリアに入ったことはないが、名人の勘が働いた。「キノコ採りが通る道はたぶんここだな」。二手に分かれた捜索隊の約20人を引き連れ、山中をずんずん上っていく。

 素人目には判別できないが、キノコ採りなら選ぶであろう歩きやすそうな「道」の先。3日間の捜索では重点的に調べなかった場所だった。

 1時間後、佐藤さんのものとみられるエコバッグが見つかった。バイク以外に手がかりが見つかったのは初めて。捜索隊員らの期待は高まった。

 さらに1時間後、エコバッグ発見地点近くで、捜索隊のメンバーが救助を求める声を聞いた。「おーい、おーい、助けてけろ」。やぶの中で横たわる佐藤さんがいた。体力を消耗し自力では立てなかった。

 「おなか減った。飯食わせてけろ」。隊員がおにぎりを差し出すと、おいしそうに一口ほおばった。隊員が応急で作った担架に乗って無事下山した。

「迷いそうになったら来た道を戻って」

 佐藤さんが発見されたのはバイクが見つかった地点から歩いて20~25分ほどの場所だったという。

 捜索を指揮した宮城県山岳遭難防止対策協議会仙台北支部救助隊長の庄子尚さん(68)は「捜索場所は広範囲にわたっていた。名人の指摘がなければ見つけられなかった」と感謝する。

 時男さんは謙遜して多くを語らない。「佐藤さんが見つかり、思わず泣きそうになった。よく行く山林でも夢中になると居場所が分からなくなることがある。迷いそうになったら来た道を戻って」と話した。
(報道部・山老美桜)

山岳遭難の85歳はなぜ97時間後に助かったか〈迷い道編〉
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