「よくあること」? サイバーテロの黒幕はカラス…なぜ光ケーブルを食いちぎるのか 福岡
「インターネットが突然つながらなくなった。自宅の光ファイバー回線用のケーブル(光ケーブル)をカラスに食いちぎられていた」。福岡市東区の80代男性から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に情報提供があった。思いもよらぬ展開に戸惑う男性に、修理した作業員はあっさり言ったという。「よくあることです」。カラスがごみ袋でなく、光ケーブルを狙うのはなぜなのか。専門家に聞くと、さまざまな可能性が浮かんできた。
男性は毎日、自宅のパソコンでインターネットを使っているが、7月末、急に通信できなくなった。NTTに電話で問い合わせたものの、ルーターは起動しており、機械の故障ではなさそう。ようやく来てくれた作業員が、電柱から光ファイバー回線を自宅につなぐ引き込み線部分がちぎれているのを見つけ、こう言った。「カラスの仕業だ」
NTT西日本に、光ケーブルのカラス被害について問い合わせた。件数は明らかにしなかったが、「故障の種類としては一般的で、全国的にしばしば起こる」と九州支店の担当者。男性と同様に、電柱から住宅側への引き込み部分のケーブルが狙われやすいようだ。
光ケーブルは、ガラス素材などでできた細い繊維状の芯材を、さらに強化プラスチックや樹脂などの補強材や外皮で覆っている。ただ、電線と比べれば細く、曲げや外圧には弱いため、電線でなく光ケーブルが狙われているとみられる。
NTT西日本によると、被害の発生頻度が高くなる時期がある。2~5月ごろだ。カラスの巣作りの時期と重なるが、同社は「巣作りのためか、他の理由があるのか、はっきりとは分からない」と説明した。
カラスの生態について20年以上研究を続けているという「CrowLab(クロウラボ)」(宇都宮市)の塚原直樹代表はこう指摘する。「春ごろであれば、巣作りの材料にしている可能性がある」
巣作りの際、巣の外側は木の枝や針金、ハンガーなどの硬めの素材を使う。内側には、動物の毛など柔らかい素材を好む。光ケーブルの芯材であれば外側に、樹脂であれば内側に使われる可能性があるという。
かみ心地が良いか、それともじゃまだから?
ただ、今回の被害は7月末。巣作りの時期からずれる。「カラスは元々プラスチックや樹脂製品などをついばむのが好き」と塚原氏。エアコンの室外機に使われている断熱素材や、重機のシートカバーなどをつついて、ボロボロにすることもよくあるようだ。
カラスの「貯食行動」が関わっている可能性も考えられる。餌を隠し、後で食べる行動だ。隠し場所は個体ごとで異なり、木のほらや石の裏を選ぶカラスもいれば、電柱と変圧器の隙間を選ぶケースもある。“マイスペース”を設けるために、物をつついて破損させる場合もあるというのだ。
塚原氏は「樹脂素材のかみ心地が良いか、それともじゃまだから、ケーブルをつついているのかもしれない」と指摘。カラスに指をかまれれば、ペンチで挟んだほどの強さという。直径1~2センチほどの光ケーブルを、簡単にねじ曲げたり破損したりしそうだ。
対策はあるのか。カラスの撃退をうたうバルーンなどの商品もあるが、塚原氏によると、見慣れないものに警戒心が強いため一時的な効果はあっても、見破られれば二度と通用しない。
今回のケースは電柱付近ということもあり、個人での対策はなかなか難しそうだ。塚原氏は「電柱の地中化が良いが、コストがかかりどこでもすぐにできない。ケーブル自体をさらに強く改良するしかないのではないか」としている。(西日本新聞・黒田加那)
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