参院選「啓発ポスター」が政治的活動? 仙台の高校生、問題提起
「参院選(10日投開票)の啓発ポスターを掲示したら、先生に『学校で政治的活動は禁止。はがせ』と言われた」。仙台市内の宮城県立高3年の女子生徒(17)から「読者とともに 特別報道室」に声が届いた。取材を進めると、教員の過剰反応ぶりが浮かび上がった。(岩田裕貴)
「確認ミス」と学校側、不許可から一転謝罪
女子生徒と学校によると6月24日、女子生徒は選挙の基本的な仕組みや期日前投票の手順などを記したポスターを手作りし、校内の壁などに貼った。4月に始めた学校教育を考える愛好会活動の一環だった。
女子生徒は6月28日、取得が必要と知った掲示許可を得るため、生徒指導部長の教員に概要を説明。教員は校内での政治的活動を禁じる校則を指し示し「校内では禁止だ」と指摘した。
「特定の政党を支持したものではない」と女子生徒は反論したが、教員は「参院選という言葉を抜いてください。許可がないから剥がして」と求めた。
女子生徒は同29日、特別報道室に情報提供するとともに広く問題提起するため、ポスターの写真や経緯説明文をツイッターに投稿。多くの賛同と学校の対応を疑問視する反応が寄せられ、末松信介文部科学相からも「活動は大変素晴らしい」と返信があった。
文科省は2015年の通知で高校生の政治的活動に関し、政治的中立の観点から校内では制限または禁止とした。公平性の保たれた投票の啓発は該当しない。
学校側は翌30日、生徒指導部長ら教員3人が女子生徒と面談し、「ポスターの内容に問題はなく、きちんと確認しなかった学校のミスだった」と謝罪。掲示も許可した。
取材に対し、教頭は「ぱっと目に付いた『参院選』『国政』という文言を捉えて、早とちりのような形で対応してしまった」と釈明した。女子生徒は「大学受験のためだけの勉強になりがちな授業に疑問を持ち、活動を始めた。ポスターが少しでも政治を議論するきっかけになればと考えた」と説明した。
これまでタブー視、神経をとがらせる教育現場
参院選啓発ポスターを巡る騒動の直接の原因について、女子生徒と学校には認識の隔たりがある。
学校によると、女子生徒は教員にポスターの概要を説明する際、掲示済みの全6枚のうちスマートフォンで撮影した4枚分の写真と現物1枚を見せた。教員は画面に表示された「参院選」などの文言に目を奪われて内容をよく確認せず、政治的活動と思い込んだ。
これに対し、女子生徒は「応対した生徒指導部長は少なくとも現物1枚については一言一句確認した」と説明。「単なるミスではなく、政治的活動について認識を誤った教員の意識自体が問題だ」と主張する。
今回の問題の背景には長年、政治を積極的に扱うことを避けてきた教育現場の実情が透けて見える。
2016年に18歳選挙権が導入されたことに伴い、1969年から全面禁止されていた高校生の政治的活動も容認された。今年4月には成人年齢が18歳に引き下げられ、校内に「大人」の有権者も存在することになったが、各校とも一定の制限をかけ続けている。
河北新報社が宮城県教委への情報公開請求で得た資料によると、県立全77高校の半数以上に生徒の選挙運動や政治的活動を制限する校則がある。このうち校内での政治的活動は多くの学校で禁じられ、女子生徒が通う学校もその一つだ。
学校側は「(女子生徒の活動は)前例がなく、参院選期間中で注意深くなっていたこともあり、教員が政治的活動と結び付けて考えがちな面は多分にあっただろう」と説明する。
女子生徒は4月の愛好会設立後、他の生徒からの冷たい視線を感じてきたという。「政治に対して壁があるような空気を感じる。学校教育がこれまで積み重ねた過剰なタブー視の結果ではないか」と話す。
[政治的活動]文科省が15年に出した通知によると「特定の政治上の主義もしくは施策または特定の政党や政治的団体等を支持し、またはこれに反対することを目的として行われる行為であって、その効果が特定の政治上の主義等の実現または特定の政党等の活動に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉になるような行為をすることをいい、選挙運動を除く」とされる。
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