<311次世代塾>聴覚障害者へ情報届かず/第6期第11、12回詳報
救助へ多様な備え不可欠
東日本大震災の伝承と防災の担い手育成を目的に、河北新報社などが開く通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」第6期は2022年11月12日、第11、12回講座を仙台市宮城野区の東北福祉大仙台駅東口キャンパスで開いた。「被災の現場」をテーマに仙台市太白消防署消防司令補の小野寺修さん(48)、宮城県聴覚支援学校宮ろう同窓会会長の渡辺征二さん(82)が大学生ら約70人に講話した。
小野寺さんは震災当時、仙台市若林消防署の荒浜航空分署に勤務。発生当日は津波浸水域で徒歩とボートで救助に当たり、がれきが浮く背丈ほどの水の中を、ロープを使って被災者の搬送を繰り返した。
震災翌日から仙台東部道路東側の地域で、ヘリコプターによる救助活動に従事。乳幼児をつり上げた際は「道具がなく、大人用を工夫して使えるようにした。現場では臨機応変の対応が必要だ」と述べた。
低体温症で亡くなった人が多いことに触れ「多様な備えが大事。時期や気温、天候を考えて備える意識を持ってほしい」と指摘。震災11年を経て「震災を体験した職員が4割を切り、経験を若手に伝えている。皆さんも学んだことを伝えてほしい」と訴えた。
渡辺さんは震災後に描きためたイラストをスクリーンに映しながら手話で被災体験を振り返り、みやぎ通訳派遣センターの通訳者が口頭で伝えた。
名取市閖上の自宅で大きな揺れに遭った後、耳が聞こえない渡辺さんは「何度も外に出て住民や通行人に状況を尋ねたが、情報を得られなかった」と説明。地震発生の1時間後、近所に住んでいる兄が「津波が来る! 早く逃げろ!」と駆け込んできたため、兄の車に乗って津波に追われながら避難した。
築8年の自宅は津波で流失。市内の親戚宅に身を寄せた後、仮設住宅に入居した。「役所には手話通訳がいなかった。罹災(りさい)証明も内容が分からず申請できなかった」と言う。市に要望を繰り返し、6月末にようやく通訳者が配置された。
渡辺さんは「震災後は情報が入らずつらかった。ろう者は情報が乏しい中で生きてきたことを理解してほしい」と訴えた。
<受講生の声>
■臨機応変さ大切
震災発生直後の現場で救助と捜索に当たった小野寺さんの話を聞き、災害時は日頃の備えと臨機応変の対応が必要と学びました。将来は消防士を目指しています。学んだことを生かすほか、避難場所の確認など身近な備えにも取り組み、地域の役に立ちたい。(仙台市青葉区・東北福祉大1年・菊池裕翔(ひろと)さん・19歳)
■想像を広げ支援
聴覚障害者の渡辺征二さんが震災で大変な困難を抱えたと知りました。筆記具で情報を伝えるなど、想像を膨らませることが支援につながります。来春、小学校の教員になる予定です。防災教育に取り組み、耳が聞こえない人の困難や支援方法も子どもに伝えたい。(宮城県七ケ浜町・宮城学院女子大4年・赤間あやさん・22歳)
<メモ>
311「伝える/備える」次世代塾を運営する推進協議会の構成団体は次の通り。河北新報社、東北福祉大、仙台市、東北大、宮城教育大、東北学院大、東北工大、宮城学院女子大、尚絅学院大、仙台白百合女子大、宮城大、仙台大、学都仙台コンソーシアム、日本損害保険協会、みちのく創生支援機構。
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