FAQ

早産児の長女、入学遅らせたいのに… 「就学猶予」柔軟運用を 岐阜

 「早産児で体が小さく、発達もゆっくりな4歳の長女の就学のことで悩んでいます」。岐阜県各務原市の女性(32)から、中日新聞名古屋本社のユースク取材班にそんな投稿が寄せられた。「就学義務の猶予」(就学猶予)の手続きを利用して、長女の就学を遅らせたいという。学校教育法で定められた手続きの一つだが、取材を進めると、保護者の不安や子どもの発達に合わせた柔軟な制度の必要性が見えてきた。

幼稚園で体を動かす長女(中央)=岐阜市(布藤哲矢撮影)

 女性の長女は予定日より4カ月早い2018年3月に生まれ、学年が繰り上がることになった。当時の体重は610グラム。新生児慢性肺疾患など五つの既往症などのため、2年前までは酸素ボンベをつけ、今も胃ろうからミキサー食を注入する医療的ケア児だ。

 昨春、幼稚園に入り、走り回れるようになるなど成長も見せる。ただ、階段の昇降には介助が必要で、「同い年の子に比べると発達のペースは遅く、できることは多くない」。身長は93センチ、体重12キロで、3歳半の平均以下だ。年中にあたるが、園の計らいで一つ下の年少児として過ごす。

小学校でも1学年下に

 女性は小学校でも1学年下の児童と学ぶことを望み、昨年7月に市教委に就学猶予を相談した。「時期が早過ぎる」と再訪を促されたため、今年9月に再び訪問したところ、「実年齢に応じた就学をしてほしい」と告げられた。

 「低出生体重児という要件に当てはまるのに」。困った女性が県教委や地元議員を頼ると、翌月、市教委から「前向きに検討したい」と連絡があった。今は安心しているが「同じように猶予を考えている保護者らに『議員を通さないとだめなのか』と疑問を残すのでは」と感じている。

 ユースク取材班が各務原市教委に問い合わせると、「当初から『今後も継続して相談してほしい』との趣旨だった。うまく伝わっていなかった」と担当者が釈明。文部科学省に聞くと、「個別事例は把握できない。総合的な判断は各教委に委ねている」との回答だった。

 各務原市教委は就学猶予の可否を通知する時期の目安を、卒園直前の12月としている。「希望する児童の発育状況だけでなく、他の児童の数や状況もあるため」と説明するが、女性は「ぎりぎりのところで不可とされれば、残り3カ月で学習や医療的ケアの準備が必要になり、保護者や子ども、学校も負担。もっと柔軟に、余裕をもって検討してほしい」と望んでいる。

障害ある子の権利奪った歴史

 文部科学省初等中等教育局の担当者によると、就学猶予の可否の判断は、入学通知などと同様に自治体で行う「自治事務」。決定時期は各市町村に一任している。全国で就学猶予が認められた例は、2017〜21年度の5年間で4132件あった。

 就学猶予の制度ができた経緯から、現行の仕組み自体に懐疑的な見方もある。

 障害児教育に詳しい日本福祉大教育・心理学部の伊藤修毅(なおき)准教授は「明治時代に始まった就学猶予や免除は、障害の重い子から教育を受ける権利を剥奪する性質を持っていた」と指摘。「1979年に養護学校教育の義務制が始まるまでは、障害などで入学先がない子どもの親には半ば強制的に願い出させて就学を猶予していたこともあった」と解説する。

時代に即した制度必要

 ただ、医学の発達によって命をつなげる子どもが増えたことや、子どもの発達に合わせた学習環境を望む声が強まっていることを踏まえ、「時代に即した新たな就学制度の検討が必要」との見方を示す。

 日本では就学年齢が6歳と定められている現状にも触れ、「発達に応じて入学を1年前後できるなど、柔軟に選べる仕組みがあってもいい。子どもの実態に合わせられることが理想だ」と話した。(中日新聞名古屋本社・高田みのり)

[就学猶予]学校教育法で定められた義務教育への就学を猶予する手続き。病弱や発育不全、「その他やむを得ない事由」がある子どもを対象に、各市町村の教育委員会の判断で適用される。「やむを得ない事由」には4例が示され、(1)児童生徒の失踪(2)帰国児童生徒が日本語能力を養うための一定期間、適当な機関で教育を受ける場合(3)将来、外国の国籍を取得する可能性が高いと認められる重国籍者で、他に教育の機会が確保されている場合(4)低出生体重児等−がある。

全ての写真を見る >

企画特集

先頭に戻る