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たこ焼き、仙台人は塩こしょう味がお好き? 創業40年「かぜの子」に1番人気のルーツを聞いた

ふわとろのたこ焼きが焼き上がるまで

 仙台市の老舗たこ焼き店「かぜの子チェーン」では定番のソースを抑え、塩こしょうが1番人気だそうです。本場・大阪の人が驚くメニューはどのように生まれたのでしょうか。社長の成田敏彦さん(69)に店のルーツを尋ねました。(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

たこ焼きを作る成田さん。「生地は緩いほどおいしいけど、作るのは難しくなる」と話す=2022年11月24日、かぜの子チェーン上杉店

「ふわとろ」まるで明石焼き

 午後4時、青葉区上杉の店舗に明かりがともる。この道43年、成田さんが鉄板の前で巧みにピックを操り、たこ焼きを返す。緩めの生地は、魔法をかけられたようにかわいらしい球体に変わった。

 熱々を口に運ぶ。ふわとろの衣と、ぷりぷりのタコが絶妙な食感の調和を生む。外側が茶色でカリカリの大手チェーンとは正反対。兵庫県明石市の名物明石焼きに近い印象だ。

 3店で年間約5万パック、45万個を売り上げる。成田さんは「うちのが特別白いとか、やわらかいとか思ったことはない。他を手本にしたり比べたりせず、自分が食べて、おいしいものを追い求めてきた」と語る。

直径約4センチ、丸く焼き上がったたこ焼き。「何も付けなくてもおいしいよ」と成田さん=2022年11月24日、かぜの子チェーン上杉店
手前から時計回りに塩こしょう、スペシャルマヨネーズ、ホットマヨネーズ=かぜの子チェーン上杉店

アルバイトの賄いメニュー

 5種類の味付けで「塩こしょう」は4割弱を占める人気トップ。素材本来の味を楽しめると評判だ。「ホットマヨネーズ(塩こしょう+マヨネーズ)」が2割強で続き、合わせて6割に上る。「ソース」は15%にとどまる。「お客さんの顔を見れば、どの味を選ぶか大体分かる」と豪語する。

 塩こしょうやマヨネーズは元々、アルバイト店員の賄いメニューだった。おいしさが口づてに広まり、数年で正式メニューに昇格した。「マヨネーズ付きのたこ焼きを日本で最初に売り出したのはかぜの子」と成田さん。真相は定かではないが、先駆的だったのは間違いなさそうだ。

開業から間もないかぜの子チェーン中田店=1979年ごろ(かぜの子チェーン提供)

KFCから経営手法学ぶ

 ケンタッキーフライドチキン(KFC)が開業に深く関わっている。1970年代、米国発のファストフードチェーンが進出し、国内の外食産業は一気に花開いた。成田さんは77年、仙台に初出店したKFC南町店の開店スタッフだった。先端の経営管理手法に触れ、刺激を受けた。

 2年間の経験を基に79年、かぜの子チェーン1号店を太白区中田に開いた。卵、牛乳、小麦粉、鶏肉。KFCで扱い慣れた食材をたこ焼きと焼き鳥に変身させた。「若者が集うコーヒー専門店を開きたかったけど、内装費がかさむ。手持ちを増やすまで数年間のつもりだった」と明かす。

 それでも、やるからには中途半端な商品は出せない。研究のため、食の都・大阪に何度も行き、人気のたこ焼き店などを1日7軒はしごした。「仙台では飲食業は卑しい仕事と散々さげすまれた。大阪は食文化やサービスの水準が高く、世界が違っていた」と振り返る。

開業初期の店舗で調理場に立つ成田さん=1983年8月、かぜの子チェーン中田店(かぜの子チェーン提供)

 仙台で当時、たこ焼きは竹串に3個刺して売られるのが一般的だった。小麦粉の割合が多く、団子のように硬かったらしい。このため、自信を持って出した「ふわとろ」のたこ焼きを、客が「つまようじで刺せない」と怒って突き返してきたこともあったという。

 午後4時からの営業には理由がある。当初は前日の売上金を握りしめ、卸町で食材や包装材を仕入れる。店に戻り、昼から深夜まで働く。そんな生活を続けていた。「ある日、どうしても起きられなくなった。もう駄目だと思って涙が出た」。心身の限界を感じ、やむなく夕方から開くことにしてみると、意外にも売り上げには大きな差がないことに気付いたという。

長町店を閉じ、2019年にオープンした上杉店=2022年11月24日

「ご褒美系」提供し続けたい

 43年間、大事にしてきたのは「選びうる最高の食材を妥協なく使う」。近年はかみ切りやすいやわらかいタコが好まれる傾向だが、モーリタニア産のマダコを仕入れ、しっかりとした歯応えを求める。風味を落とさないよう、市場が閉じる盆正月を除き冷凍品は使わないというこだわりもある。

 「変な話だけど、売れ残りが出るとうれしくなる。『今日も食える』ってね。毎日食べても飽きないのは、それだけ安心できる食材でちゃんと作っているからなんだ」と胸を張る。

 成田さんはかぜの子の商品を「ご褒美系」と称する。「単なる栄養補給の食べ物ではなくて、テストや大会でいい成績が出た時などに買ってもらえるようなもの。買いに行く前、持って帰る途中、食べている時、よだれが出ちゃう感じ。そんな幸せな感情を提供し続けたい」と話す。

歯応えの良さを重視し、モーリタニア産マダコを選ぶ。風味を損なわないよう一度も冷凍せずに使う(かぜの子チェーン提供)
かぜの子チェーン上杉店。「客足の季節変動は少ないが、日ごとの傾向は読めない」という=2022年11月24日

[かぜの子チェーン]
◎売り上げデータ
年商は3店で7000万円程度。最盛期の1990年代は長町店(太白区)荒町店(若林区)など5店を展開し、2億円近かった。売り上げ構成はたこ焼きと焼き鳥が同程度で合わせて9割を占め、残りが焼きそば。主な客層は20代の社会人で、平均客単価は2000円ほど。23年以降、長男啓吾さん(37)が事業を継承する予定だという。

◎屋号「かぜの子」の由来
「子どもは風の子」説、米シンガー・ソングライターのボブ・ディランさんの代表曲「風に吹かれて」説などがあるが、成田さんは「あまり深い意味はないんです。開業申請しにいった保健所があと10分で閉まるというので…」と頭をかく。法人名の有限会社エス・ケー・シーは仙台かぜの子チェーンの略語。KFCとどこか似た語感を持つのは偶然ではないようだ。

◎店舗情報
<中田店>仙台市太白区中田5丁目1の3。年中無休。022(242)0325。
<宮千代店>宮城野区宮千代2丁目13の1。火曜定休。022(231)0663。
<上杉店>青葉区上杉5丁目1の1。水曜定休。022(261)1055。
3店とも営業時間は午後4時~午前0時。

◎メニュー
たこ焼き・塩こしょう(9個入り、600円)ソース(610円)クラシックマヨネーズ、ホットマヨネーズ(各630円)スペシャルマヨネーズ(ソース+マヨネーズ、640円)。焼き鳥は1本155円から。

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