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平和博物館や資料館、人も場所も足りず<遺留された戦争 たどる・つなぐ 流出する「語り部」(下)>

 各地の平和博物館や資料館は、寄贈された戦時中の遺留品などの展示を通して、戦禍の記憶を今に伝えている。ただ民間施設では支え手が高齢化し、運営に影響が出ているケースが少なくない。公立施設も学芸員や保管スペースが限られる中、今後もずっと受け入れ続けられるかは不透明だ。課題を抱える現場を訪ねた。

長崎県佐世保市の佐世保空襲資料室では、展示品に実際に触れることができる

民間施設

 焼しょう夷い弾の燃えがらを持ち上げれば、ずしりと重い。片隅に立つ小柄な人形の防災頭巾には「松永誠子 三才」の名札。降り注ぐ焼夷弾から逃げ惑う子どもたちが目に浮かんだ。

 長崎県佐世保市。1945年6月28日夜の佐世保空襲の記憶を伝える資料室は2006年に開館した。市内外から提供された当時の日用品など約1200点には、触れられる品も多い。

佐世保空襲資料室の展示物は、市内外から寄贈された遺品がほとんどだ

 資料室を管理するのは同市のNPO法人「佐世保空襲を語り継ぐ会」。会員は70~80歳代が中心で、運営に参加できるのは7人ほど。常駐する当番のやりくりも一苦労だ。かつては空襲犠牲者の遺族会も参加していたが、高齢化などで参加が難しくなり、現在は語り継ぐ会のみで担う。

佐世保空襲資料室に展示されている戦時中の子どもを再現した手作りの人形。実際に使われていた衣服を着けている

 20年秋に展示場所を広げ、倉庫に眠っている寄贈品も置くことができるようになった。ただ入居施設の家賃は月4万円ほどに増額。入館無料なので、会員たちの会費や市内の学校で行う語り部活動の謝礼金が頼りだ。それも会員が減る中では心もとない。「実際の遺留品に触れられる展示だからこそ伝わることもある。ただいつまで続けていけるか」。牛島万紀子事務局長はうつむいた。

北九州市の平和のまちミュージアムでは、遺品などの資料のほか、体験型の展示を取り入れている

公的施設

 遺品を受け入れる公的施設も少なくない。今年4月に開館した北九州市の「平和のまちミュージアム」にも、市民からたびたび資料が持ち込まれる。

 市は以前から戦時資料を収集。一部を展示していたが、学芸員は配置されず展示の入れ替えはできていなかった。新施設には2人の学芸員を配置し、企画展に対応できるようになった。

 遺品持ち込みに関する問い合わせは増えているという。詳細が分からない状態で相談に来る人もおり、学芸員が実物を確認、遺族らへの聞き取りや、独自の調査をすることもある。

 今夏、学芸員の小倉徳彦さんは「ここが引き取らなかったら捨てる」と遺品を持ち込んだ市民に応対した。確認すると、兵士の心情や状況が分かる貴重な軍事郵便だった。「もし捨てられていたら取り返しがつかなかった」と振り返る。

北九州市の平和のまちミュージアムに展示された兵士の遺品について説明する学芸員の小倉徳彦さん

 財政規模が比較的大きな政令市だが、ミュージアムの学芸員は2人で他の業務もある。遺品の相談や調査にどこまで対応できるかは見通せない。また、現在は北九州市に関わるものであれば原則として受け入れているが、スペースにも限りがある。「(取捨選択を)判断すべきではという議論もある」(同館)。

 ただ、その基準を設けることも容易ではない。福岡県も資料収集を行っているが、専門の学芸員はいない。寄せられた資料は計約6000点に上るが「知識がなければ価値判断は難しい」(県行政経営企画課)。受け皿としてのニーズが高まる中、対応に苦慮している。

「活用に悩む前にまず収集」 安斎育郎・立命館大名誉教授に聞く

 寄贈された戦時中の遺留品などを展示し、戦争の記憶を今に伝える各地の平和博物館や資料館は、高齢化や人員不足に加え、新型コロナウイルス禍で苦境に追い込まれている。立命館大の安斎育郎名誉教授(平和学)は「貴重な資料を逃さないよう地域に受け皿が存在することが重要」と訴える。

 安斎名誉教授は、各地域に平和や戦争をテーマにした平和博物館があることが理想的だと指摘する。「活用に悩む前に、散逸を防ぐための収集が第一だ」

安斎育郎・立命館大名誉教授

 2020年7月、全国の平和博物館を対象に新型コロナ禍の影響などを尋ねるアンケートを実施した。回答した57施設のうち約4割が「財政上の困難に直面した」とした。入場料に加え、寄付やグッズ購入なども落ち込んだためだ。「閉館も検討せざるをえない」とした施設も約1割。オンラインでの展示やイベントといった新たな取り組みもあるが、収入には結びつきにくいのが実情だ。

 民間の小規模な施設ほどコロナ禍の影響は大きい。閉館してしまえば、施設が所有していた資料の行き場もなくなる。安斎名誉教授は「コロナ以前と比べ、さらに厳しい状況。公的な補助も必要だ」と求めた。(西日本新聞・黒田加那)

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