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JA共済、不適切契約の証言相次ぐ 職員が自ら加入「自爆営業」 無断手続き、二重徴収も 福岡

 全国のJAが手がける共済事業を巡り、職員から「厳しいノルマで無理な営業を強いられた」といった証言が相次いでいる。利用者が金銭的被害を受けた架空契約や、職員が自ら加入する「自爆営業」が明るみに出たJAでは、第三者が入った調査でノルマが不正の原因だと指摘された。背景を探ると、保険の不正販売が発覚した日本郵政グループと同様、金融事業に過度に依存した収益構造の弊害が浮かび上がった。

JAおおいたが公表した第三者委員会の報告書。「過大なノルマは不祥事の元凶」などと記載している

 JAむなかた(福岡県宗像市)では11月22日、職員が利用者に無断で書類を作成するなどし、契約切り替えの際に新旧の掛け金を二重に徴収したケースが関係者への取材で判明した。同JAは「職員が実績稼ぎのために不正をした可能性もある」としており、外部の弁護士を交えた調査をしていく。

 JAは、建物や生命、自動車などの共済を扱う。西日本新聞にはこれまで、福岡や長崎、埼玉、茨城などの職員から過重なノルマといった内容の内部告発が寄せられた。「地道な営業ではとてもノルマをこなせない。多くの同僚が、必要がないのに自分や家族の共済を契約している」。中国地方のJAの男性職員は打ち明けた。

 JAおおいた(大分市)は2020年9月、利用者の共済契約の積立金を原資に、職員が不正に貸付金を受け取った問題が発覚。第三者委員会で調査し、同12月に報告書を公表した。

 これによると、約2千人の役職員を対象にした複数回答可のアンケートで、48%が不祥事の原因に「ノルマが厳しく職員への負担が大きい」ことを挙げた。自由記述欄には「退職者が非常に多いブラック企業と化している」「達成できなければ、面談で追い詰められる」などの証言があった。給与の半分以上を自身の共済の掛け金に充てた職員がいることも分かった。

収益を金融事業に依存

 共済利用者の名義を勝手に使った着服事案があったJA高知県(高知市)も1月、特別調査委員会の報告書を公表。「自爆営業を強要されたと感じる職員が相当数存在する」とした。

 JAの多くは収益を共済事業に依存する。農林水産省の20年度のまとめでは、全国587のJA中、581組合(99%)で共済は黒字。農産物販売など本業の「経済事業」は453組合(77%)が赤字だった。

 同省OBでキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「JAは本来、農業生産者が互いに助け合う協同組合なのに、組合員以外の不特定多数を相手に金融事業を行う株式会社のような組織になっている。組織維持のため、全国的に無理な共済営業が行われている可能性があり、国は実態を調べるべきだ」と語った。

5件40万円、JAむなかた不正認める

 JAむなかた(福岡県宗像市)で11月に明るみに出たのは、建物の共済契約5件を巡る不正だった。担当職員は、利用者の承諾を得ないまま自分で署名、押印して勝手に書類を作成。従来の契約を切り替える際、新旧の掛け金を二重払いさせていた。同JAは監督官庁の県に事案を報告。外部の弁護士を含む特別調査委員会を設置して調べる。

 5件の利用者はいずれも同一人物で、福岡県内に住む70代女性。所有する複数の物件を対象に火災や自然災害に備える建物更生共済を契約していた。今夏に書類を確認し、記憶にない手続きや自身のものとは異なる筆跡があったため、同JAに説明を求めた。

 女性によると、JA側は当初「手続きはきちんと行っている」と回答したが、10月上旬以降に一転。4件の契約について、4~11カ月間、新旧の掛け金が「二重払い」となる不適切な内容だったと認めた。これとは別に、建物の評価額を上回って保障金額を設定した契約があったとも説明。実際に被災しても評価額を上回る金額は保障されないため、無駄な掛け金を支払わされていた。

 これらの不利益は一定期間後に解消されていたが、担当職員はその際、女性に説明せず承諾も得ないまま解約申込書などを勝手に作っていた。JA側は一連の経緯を謝罪し、「本来不要な支払い」だったとして計約40万円を返還する意向を示した。(西日本新聞・宮崎拓朗)

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