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いいんですか?ダイエットのために糖尿病薬を処方 福岡の美容クリニックの言い分

 「ダイエット目的で糖尿病治療薬を処方することは違法ではないのか」。西日本新聞「あなたの特命取材班」にこんな声が届いた。一部の美容クリニックなどで、やせたい願望のある人に医師が糖尿病治療薬を処方するケースが問題になっている。健康被害の報告もあり、日本医師会(日医)や関連学会が目的外処方(適応外処方)として注意を呼びかけているが、公的医療保険の対象外の自由診療で行われているため規制が難しく、全容が把握しにくいのが現状だ。

SNS上には「GLP―1受容体作動薬」を使ったダイエットに関する投稿が多数見つかる

 ダイエット用に使われているのは「GLP-1受容体作動薬」。食べ物を口にすると小腸から分泌されるホルモンと同じ働きをする薬で、インスリンの分泌を促進し、血糖値を下げ、食欲を抑える作用があるという。国内では2型糖尿病患者の治療薬として、注射薬と経口薬が承認されている。

 ネット相談を有料で受けている福岡県大木町の薬剤師(34)は、ダイエット目的で経口薬を購入した女性から「長く飲み続けて大丈夫か」と尋ねられた。女性はオンライン診療を受けて処方されたが、看護師とのやりとりがほとんどで、医師の診察は形式的なものだったという。薬剤師は「健康な人が飲み続けた場合にどんな影響が出るかデータがなく、飲むのは勧められない」と返答をした。

 国民生活センター(東京)には、このような糖尿病治療薬をダイエット目的で処方する美容医療に関する相談が複数寄せられている。50男性は計44万円分の薬を購入したものの、「やせることはなく、胸焼けのような症状が続く」と健康被害を訴えたという。

オンライン診療の普及が背景

 糖尿病治療薬の目的外使用が目立つようになった背景には、新型コロナウイルス流行の余波でオンライン診療が普及し、医療機関にかかりやすくなったことがある。ネット上には、美容クリニックなどの「ストレスなくやせられる」「メディカルダイエット」といった宣伝文句がはんらん。日医などによると、クリニックのウェブサイトから申し込むケースが多く、オンラインで薬の説明や持病などの質問を受け、後日、薬が送られてくる。

 こうした事態を重く見た日本糖尿病学会は2020年夏に「不適切な薬物療法で患者さんの健康を脅かす危険がある」などとする見解を表明。日医も20年と22年に定例記者会見で「治療の目的を外れた薬の使い方で医の倫理に反する」と指摘した。この薬を製造販売するノボノルディスクファーマ(東京)など4社も適正使用を呼びかけた。

 ただ、消費者のニーズと提供する医療機関があれば成立する自由診療のため、違法ではない。日医や学会も医師を指導したりすることは難しく、適正使用をお願いし続けるしかない。

保険診療の薬価の約3倍

 「痩身(そうしん)は一大ジャンル。ニーズがあるからには、提供するクリニックも必要だ」。福岡市の美容クリニックの医師は言い切る。「GLP-1ダイエット」と称し注射薬と経口薬を備えている。問い合わせは毎日5~10件。オンライン診療も受け付けており「きちんと施術内容を説明し、気になることがあれば、いつでも来院してもらう。健康被害やトラブルはこれまで聞いていない」と説明する。

 ただ薬の値段は医療機関が自由に決められ、国が定める保険診療の薬価より大幅に高いケースもある。この福岡市のクリニックも1錠約1000円で、保険診療の薬価の約3倍だった。

日医常任理事「重篤な副作用招く可能性」

 糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」がダイエット目的に使われている現状について、日本医師会の宮川政昭常任理事(薬事・医療機器担当)に聞いた。

 コロナ禍で輸入が滞った際、この薬の注射薬も流通が一時的に減少した。大量にダイエット用に流れれば、糖尿病患者の治療に影響が出る可能性もあるとして、日医は2度にわたり定例記者会見で目的外使用をしないよう注意を呼びかけた。さらに治療の目的を外れており「医師の行為は医の倫理に反している」と指摘もしてきた。

 この薬を飲み続けると、健康な人でも体に負担が掛かることがあり、急性腎不全や胆石症、甲状腺などの重篤な副作用を招く可能性がある。万一そうなっても目的外使用だと、医薬品救済制度の対象とならない。声を上げられない人も多くいるとみられ、国民生活センターなどに届いた相談は氷山の一角ではないか。

 ここまで広がったのは、ネット広告やSNSにも一因がある。法に触れない巧みな表現で若者を誘い込む宣伝文句が多く、成長期の若年層が使うとより悪い影響も起きかねない。SNSで拡散に加担することで「意識なき加害者」となりうると自覚してほしい。(談)(西日本新聞・黒田加那)

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