餅で窒息、なぜ男性に多いの? 女性の方が嚥下機能強い?
正月三が日は餅を食べる機会が増える。消費者庁が2018、19年の2年間を調べたところ、餅が詰まって亡くなった65歳以上の計661人のうち、男性は477人(72%)。女性より2.6倍多かった。なぜだろう。専門医に取材する中で、ある答えが浮かび上がった。
餅が詰まる理由
そもそもなぜ餅は詰まってしまうのか。嚥下(えんげ、飲み込む機能)を専門とする富山県リハビリテーション病院・こども支援センター副院長・内科部長の木倉敏彦医師(61)に聞いた。
窒息事故では、口に入った食べ物を飲み込んだ時、食道ではなく、気道に入ってしまいふさいでしまい、呼吸ができなくなる。原因は大別して二つある。一つは食道と気道を分ける弁の反応(嚥下反射)が鈍くなるため、もう一つが喉の圧力(筋力)が弱くなってしまうためだ。
木倉医師は「特に怖いのは喉の力が弱くなること」と話す。特に、高齢者や長く入院した人などは注意が必要と言う。喉の力が弱まるとたくさん食べられなくなる、食べられないことでなおさら喉の力が弱まる。これが嚥下機能が衰えていく悪循環だ。
おしゃべりが奏功?
飲み込むための喉の力はどうすれば鍛えられるのか。「喉の力も筋力の一つ。日頃の運動習慣が大事なんです」と木倉医師は語る。少しドキドキする、ちょっとだけ息が荒くなる、ぎりぎりおしゃべりできるくらいの強度で運動することで、喉も鍛えられる。
木倉医師は「実は、新型コロナの影響で、あることが激減したことが喉の力の低下につながっている」とぽつり。ピンと来た人もいるかもしれない。そう、カラオケだ。「カラオケは飲み込む力を鍛えるのにとてもいい。声を出すことは効果的です。チームスポーツや友だちとハイキングなどはお勧めです」
男性の方が餅による死亡事故が多いことについて、木倉医師は「高齢の方の場合ですが、一般的に女性の方が社交的でよくしゃべる人が多い。女性の方が男性より嚥下の力があるのは、そういう理由があるのかもしれません」と話した。
危険なサインは…
年を重ねても毎年、餅をおいしく食べているという人もいるだろう。でも、加齢によって確実に筋力は落ちていく。木倉医師は「昨年大丈夫だったからといって、今年大丈夫という保証はない」と警告する。
中でも、▽ダイエットしていないのに半年で4~5キロ体重が減った▽外出する機会が減った▽以前は1回で飲み込めた物も複数回かかるようになったーといったサインがあれば要注意。飲み込む力が低下している可能性がある。
「大事なのは、昨年の自分と比べてどう変わったか」。できないことが増えたなぁという人は「餅はやめた方がいい」。それでも、どうしても食べたい人もいるだろう。家族に隠れてこっそり1人で食べるのは絶対にやめてほしい。せめて誰かと一緒に食べること。一口を小さめにする、食事中に水分を取って口や喉を潤すなど工夫してほしい。
体力つけ食を楽しもう
木倉医師は「本当は、医師として餅を食べることは勧めたくはない」と複雑な思いを明かす。窒息事故は数分で生命の危機となり、重篤な障害が残ることもある非常に危険なものだからだ。
同様に高齢者本人が食べたがっていても、「怖いなぁ」「心配だなぁ」と思う家族もいるだろう。そういう時は、孫、娘、息子など、高齢者本人にとって「かわいくて仕方ない存在」に説得してもらうのも一つの手だ。
今から慌ててカラオケやハイキング、ウオーキングをしても、喉の力は数日でなんとかなるものではない。「わたしは大丈夫かしら?」と心配している人は、2024年の正月を目標にこれから1年かけて体力をつけてみてはどうだろう。お風呂で歌ったり、息切れしない程度に歩いたり…。運動しておなかが空いたら、いつもの食事もさらにおいしいはずだ。食事はくれぐれも慌てず、お茶や水で口を潤しつつ、よくかんでから飲み込もう。(北日本新聞・松下奈々)
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