消えた防護服、陰性は自己申告… コロナ「開国」第1便で中国に入国した
新型コロナウイルス禍発生以来約3年に及んだ習近平指導部の「ゼロコロナ」政策が正式に終了し、鎖国的な防疫措置を取ってきた中国政府が入国時の強制隔離を8日で撤廃した。「中国入国時の具体的な流れが知りたい」。西日本新聞の海外特派員が読者の調査依頼にこたえる「あなたの特派員」に、こんな声が寄せられ、日本から首都・北京に向かう航空便の「開国」後第1便に本紙特派員が搭乗してみた。(西日本新聞・坂本信博)
30分待ちの行列
9日早朝、成田空港第1ターミナル。北京行き全日空便が出発する2時間前の時点で、搭乗手続き窓口には30分待ちの行列ができていた。個人情報や健康状態を入力した中国当局のスマートフォンアプリ「電子健康申告」の画面を、全日空の係員が乗客ごとに確認しているためだった。
中国渡航の際はこれまで、感染リスクを示す防疫アプリ「健康コード」の提示も必須だったが、8日から不要に。鼻の奥から検体の粘液を取る「鼻咽頭拭い液」方式での搭乗前48時間以内のPCR検査陰性証明書を中国当局指定書式で提出する必要があるとされてきたが、「書式は指定しない」となった。
「判断できません」
従来は中国当局認定の医療機関で、当局指定書式の証明書を書いてもらう人が多かった。ただ費用は1回2万~3万円する医療機関もあり、陽性の場合は当局に通報された。
証明書の書式が自由化されたということは、より簡単な「鼻腔(びくう)拭い液」方式(綿棒で鼻の入り口付近から検体を取る方法)の検査でもいいのだろうか。在日本中国大使館のウェブサイトには「検査結果の審査は航空会社に確認を」とあったため、全日空に問い合わせると、「係員では証明書の有効性を判断できませんので、大使館にご確認ください」。中国が入国規制緩和を発表したのは先月下旬のことで、現場の混乱も無理はないだろう。
陽性か陰性かを自己申告
当局認定ではなかった医療機関で鼻腔拭い液式の検査を受け、パスポート番号や国籍の記載もない証明書を空港に持参した。搭乗が認められるか緊張したものの、搭乗手続き時に証明書は不要で、電子健康申告のアプリに証明書をアップロードする必要もなく、検査結果が陽性か陰性かを自己申告するだけでよかった。拍子抜けした。ビザの確認後に手荷物を預けて搭乗手続きが終わった。
が、大変なのはここからだった。世界各国へ向かう人々の大行列が出国カウンターや搭乗口の手前にある保安検査場前から広大なターミナルを半周するほども延びていたからだ。距離の確保を呼びかける館内放送がむなしく感じられる密な行列は遅々として進まない。搭乗時間まで20分に迫った時、航空会社の係員が優先検査場に誘導してくれ、どうにか飛行機に乗り込めた。
機内食の提供なし
中国が「鎖国」を始めて間もない2020年に渡航した際、機内には白い防護服姿の中国人客が目立ったが、今回は皆無だった。ただ、空の旅の楽しみである機内食の提供はなかった。昨年春から中国当局が提供中止を要請。今回の緩和措置で撤廃されたものの、航空会社側の準備が整っていないためという。軽食や水が入った袋が配られた。
飛行機は3時間半余りで北京首都国際空港に降り立った。日本と同じく中国でも新型コロナの流行が続いているが、昨年末まで中国の空港に大勢いた白い防護服姿のスタッフはまったく見かけない。電子健康申告のQRコードを機械にかざすだけで、1秒ほどで検疫は終了。陰性証明書の確認はないままだった。成田空港の混雑と煩雑さとは対照的なスムーズさだった。
2年半前に入国した際は、預けていたスーツケースが消毒液でびしょびしょになって戻ってきたが、今回はそんなこともなく、北京の空の玄関口はすっかりにぎわいを取り戻していた。
はやウィズコロナ
ゼロコロナ政策下でPCR検査の陰性証明が何度も求められ、最長3週間もの隔離が入国者に義務付けられたのは何だったのか。回転舞台のように様変わりした中国の日常。ウィズコロナへの転換という点で中国は日本を追い越したのかもしれないと感じた一方、社会主義国家ならではの変わり身の早さに日本や欧米各国は驚き、中国からの水際対策を強化している。日中間の往来が正常化し、交流が回復することを願って空港を後にした。
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