<311次世代塾>避難対策 弱者配慮を/第5期第7、8回詳報
救済制度 柔軟な運用必要
東日本大震災の伝承と防災の担い手育成を目的に河北新報社などが開く通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」第5期は2021年10月9日、第7、8回講座を開き、大学生23人が仙台市若林区の震災遺構荒浜小を見学したほか、名取市閖上地区で津波被害を受けて自宅を再建した語り部の話を聞いた。
荒浜小は震災発生後、津波で4階建て校舎の1、2階が浸水。受講生は天井や床が壊れた1階廊下、ゆがんで折れたベランダ鉄柵など津波の脅威を物語る校舎を見学した。
案内役は市嘱託職員の高山智行さん(38)、川村孝男さん(66)が務めた。震災当時校長だった川村さんは「2階廊下にいて靴がぬれていると思った途端、窓を破って黒い水が流れ込んだ」と振り返った。
同校は津波に備えて屋上への避難訓練をしていた。当日、避難した児童71人を含む住民ら320人は孤立したが、翌日以降、救助されるなどして無事だった。
食料や水は3階に備蓄。避難住民からの最初の要望は、おむつと生理用品だったという。川村さんは「弱い立場の人にも配慮した備えが必要。自分の命も周りの命も助ける方法を考えてほしい」と呼び掛けた。
受講生は近くにある荒浜地区住宅基礎群にも足を運び、残された住宅の一部を見ながら、かつての街並みに思いを巡らせた。
名取市閖上では日和山を訪れ、閖上中央町内会長の長沼俊幸さん(59)が、790人が犠牲となった閖上地区の津波被害と、生まれ育った地域の震災前後の変遷を説明した。
地域で震災前の姿を残すのは日和山だけ。長沼さんは「震災10年で何も変わらないと思っていたが、寂しさは増している。年々違う感情が湧くのものだと知ってほしい」と訴えた。
閖上公民館では、生活再建の歩みについて語った。6年半の仮設住宅生活を経て閖上に自宅を再建。津波で流失した家と2軒分のローン返済を続ける。
「二重ローンの救済制度はあるが使えなかった」と長沼さん。「地域の復旧・復興に住宅再建は欠かせない。被災者の実情に合った対応が必要」と強調した。
仮設住宅から閖上の災害公営住宅に移ったものの、仮設の友人と離れ、不安で体調を崩す高齢者も。行事では、以前暮らした仮設団地ごとに人が集まる傾向がある。長沼さんは「仮設暮らしが長過ぎるのは良くない。まちづくりに影響が出ている」と憂慮した。
<受講生の声>
■再建の苦労知る
長沼俊幸さんの話を聞き、被災者は自宅の再建で二重ローンを抱えたり、災害公営住宅などに移り住んでコミュニティーをゼロからつくり直したり、大変な思いをしていると知りました。震災で起きたことや備えの大切さを学び、次の世代に伝えたい。(仙台市太白区・尚絅学院大2年・中島優美佳さん・20歳)
■伝承の意義痛感
震災発生当日、荒浜小に避難した後、孤立した児童たちは、どんな気持ちで救助を待っていたのか。考えても想像がつきません。閖上はかつて津波被害を受けたのに、震災当時は閖上に津波は来ないといわれていました。災害伝承の大切さを痛感しました。(仙台市宮城野区・東北福祉大1年・斎藤佑成さん・19歳)
<メモ>
311「伝える/備える」次世代塾を運営する推進協議会の構成団体は次の通り。河北新報社、東北福祉大、仙台市、東北大、宮城教育大、東北学院大、東北工大、宮城学院女子大、尚絅学院大、仙台白百合女子大、宮城大、仙台大、学都仙台コンソーシアム、日本損害保険協会、みちのく創生支援機構。
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