<311次世代塾>知識 行動に生かして/第5期第5回詳報
南三陸・戸倉小元校長 麻生川敦さん オンライン講義
東日本大震災の伝承と防災の担い手育成を目的に河北新報社などが開く通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」第5期は2021年8月28日、第5回講座をオンライン方式で開いた。宮城県南三陸町の元戸倉小校長で多賀城市教育長の麻生川敦さん(64)が、学校防災をテーマに講話し、大学生約60人が受講した。
戸倉小は海の近くにあり、震災の大きな揺れの後、教職員は児童91人を連れて近くの高台に避難。津波は3階建て校舎屋上をのみ込んで高台に迫った。一行はさらに高い場所にある神社境内に移り難を逃れた。
同校の避難マニュアルは避難先を高台と校舎屋上の両方とし、最終的に校長が判断する内容だった。震災の2年前に始まったマニュアル作りは、結果的に避難先を1カ所に絞れなかったが、副産物もあった。
麻生川さんは「議論を契機に津波に関する教職員の会話が増えた。備えについて率直に意見をぶつけ合う中で、防災意識が高まり、津波対策の共通の土台ができた」と話した。震災当日の高台避難、想定外の神社への2次避難は、教員同士の声掛けが行動のスイッチになった。
悔やんでも悔やみきれない出来事も。高台に避難した後、自宅に戻った教員1人が犠牲になった。麻生川さんは「『避難したら絶対に戻ってはいけない』といつも児童に話していたのに引き留められなかった。知識を行動に移せなければ命を守ってあげられない」と強調した。
神社では児童らと共に不安な一夜を過ごしたが、顔なじみの地域住民の結束力が心強かったという。「みんなでお年寄りをはじめ弱い人を大事にしていた。少しだけあった食料も子どもたちに分けてくれた」と振り返った。
質疑応答で、学生から神社での児童の様子を問われると「騒ぐ子が一人もいなかったが、それだけ不安だったと思う」と説明。心の傷について「秋になっても津波の話でパニックになる子がいた。元気に見えていても、傷は心の中に刻み込まれていることを覚えておいてほしい」と訴えた。
<受講生の声>
■地域の結束大切
自由闊達(かったつ)に話し合える先生たちの関係性が学校の防災意識を高め、震災が発生した直後も、正解のない中でより良い避難行動につながったのだと思います。地域住民と良好な関係を築くことの大切さについても、防災・減災の側面から改めて感じました。(仙台市青葉区・宮城教育大3年・山下菜央さん・21歳)
■命守る力を学ぶ
「知る」だけではなく、臨機応変に行動できて初めて防災に役立つことを学びました。教員を目指しています。想定外の出来事が起こり得る自然災害に備え、自分や周りの人の命を守るために行動できる力を、子どもたちと共に身に付けたいと思いました。(仙台市太白区・東北福祉大1年・高島俊宏さん・19歳)
<メモ>
311「伝える/備える」次世代塾を運営する推進協議会の構成団体は次の通り。河北新報社、東北福祉大、仙台市、東北大、宮城教育大、東北学院大、東北工大、宮城学院女子大、尚絅学院大、仙台白百合女子大、宮城大、仙台大、学都仙台コンソーシアム、日本損害保険協会、みちのく創生支援機構。
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