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<311次世代塾>得た教訓 語り継いで/第5期第3、4回詳報

気仙沼・元消防士 佐藤誠悦さん 受講生に講話

津波で流され折り重なった車に見入る受講生=気仙沼市
当時のつらい経験を思い出し、時折声を詰まらせながら受講生に語り掛ける佐藤さん

 東日本大震災の伝承と防災啓発の担い手育成を目指して河北新報社などが運営する通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」第5期は2021年7月10日、気仙沼市を現地視察した。第3、4回講座として、大学生39人が東日本大震災遺構・伝承館を訪問。震災遺構の旧気仙沼向洋高を見学したほか、震災伝承に取り組む語り部の話を聞いた。

 受講生たちは、気仙沼市の津波被害を住民らが撮影した映像で振り返った後、津波で流された車やがれきが散乱する校舎3階、工場がぶつかって壊れた4階ベランダの壁など津波の痕跡を見て回った。

 語り部は同市の元消防士佐藤誠悦さん(69)が務めた。佐藤さんは震災発生直後、津波火災が発生した同市鹿折地区で消火作業を指揮した。夜を通して津波警報のたびに撤退を繰り返しながら放水活動を行い、延焼を食い止めた。

 翌朝、消防本部に戻り、消防隊員の家族に多くの犠牲者が出たことを知ったという。行方不明者の名簿に妻厚子さん=当時(58)=の名前を見つけた瞬間、「立っていられなかった」と話した。

 消防士として救助、捜索活動を続ける中、震災発生5日後、厚子さんの遺体が見つかった。亡きがらを前に「人を助けるために救命とレスキューの訓練をしてきた人間なのに、大切な人を助けることができなかった。自責の念に駆られた」と明かした。

 震災の教訓として、受講生に「二度と多くの犠牲を出さないため、それぞれが自分の命を守り、それができたら周囲の人を助けてほしい」と語り、自助、共助の重要性を強調した。

 過酷な任務が続き、佐藤さんは一時、心的外傷後ストレス障害(PTSD)にかかった。質疑応答でカウンセリングの様子を問われると「つらいこと悲しいことなど負の言葉とともに後悔の涙が出た。話すことで少しずつ苦しみが癒やされた」と自身の体験を説明した。

 震災を経験していない人が震災を語ることの是非については「私の話を家や学校で話したら、皆さんはもう語り部だ。命の大切さ、自助の心構え、何か一つでもいいので教訓を周囲に語りつないでもらいたい」と答えた。

<受講生の声>

■津波の高さ 驚き
 校舎4階の痕跡を見て、この地域を襲った津波の高さに驚きました。自然の脅威を語り継ぐべきです。都市の防災機能に関心があります。大切な人を亡くした佐藤さんの悲しみに触れ、将来、地域づくりを通して命と生活を守りたいという思いが強くなりました。(福島市・福島大2年・三浦祐さん・19歳)

■できること実践
 震災遺構の校舎は机や教科書が当時のまま残り、日常を襲う津波の破壊力を生々しく感じました。自分の命を守ることが大事と語ってくれた講師の思いを大切にしたい。災害時のリーダーの在り方も心に残りました。自分ができることを考え、日頃から実践したい。(仙台市青葉区・東北大1年・原茉由香さん・18歳)

<メモ>

 311「伝える/備える」次世代塾を運営する推進協議会の構成団体は次の通り。河北新報社、東北福祉大、仙台市、東北大、宮城教育大、東北学院大、東北工大、宮城学院女子大、尚絅学院大、仙台白百合女子大、宮城大、仙台大、学都仙台コンソーシアム、日本損害保険協会、みちのく創生支援機構。

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