赤い羽根募金「強制」やめました 長野・小布施町のある自治会の試み
赤い羽根共同募金の集め方について、長野県小布施町のある自治会から「『強制』ではない方法に変えてみました」との投稿が信濃毎日新聞「声のチカラ」(コエチカ)取材班に寄せられた。従来は、集めた自治会費から1世帯当たり500円を「天引き」していた。本年度からは各世帯に意向を聞き、募金に同意しない世帯に500円を返す方法に改めた。募金の強制は個人の思想・良心の自由を侵害する―との裁判例などを取り上げた取材班の記事(昨年12月22日付朝刊)がきっかけという。(信濃毎日新聞・牧野容光)
男性自治会長(77)と男性役員(79)が取材に応じた。
この自治会には65世帯が加入。自治会費からの天引きは、役員の集金の負担を軽減するためだった。だが、「以前から、強制的な募金の集め方に疑問を抱いてきた」という男性役員が、記事を読んで役員会に問題提起した。
新年度の自治会費の徴収が始まる4月までに間に合わせようと、1月から役員会で議論。同様に、結核などの予防につなげる「複十字募金」や、森林づくりなどに役立てる「緑の募金」なども天引きをやめることにした。
自治会は4月、各世帯に募金意向調査表を配布。約3割が募金に同意しなかったという。同意しなかった世帯に今後、500円を返す。
住民の受け止めはさまざまだ。パート女性(53)は「住民税非課税世帯の人もいる。募金の『強制徴収』には疑問を感じていた。今回の対応は良いこと」。一方、企業経営者の男性(76)は「そもそも自治会が募金集めを担わなくてもいいのではないか」とした。
新たな集め方について、自治会長は「課題がないわけではない」と言う。調査表は個人情報に配慮し、会計担当者だけが閲覧できるようにした。だが「会計担当者にも募金の意向を知られたくない人もいるはず」だからだ。
また、募金集めの負担軽減を維持するため、募金に同意した世帯からは今まで通り、500円を天引きする。このため500円よりも多く、あるいは少なく募金したい意思を反映させる手だてはない。
自治会長は「試行錯誤しながら、より良い方法を模索したい」と話している。
憲法学者の渋谷秀樹さん「思想・良心の自由を抑圧する"踏み絵"の要素」
赤い羽根共同募金の戸別募金を自治会費から「上乗せ徴収」する問題点を報道したところ「うちも同様だ」との投稿が複数寄せられた。中には「反対者がいないのだから問題はないはず」といった投稿もあった。問題がないのか、憲法学者の渋谷秀樹さん(立教大名誉教授)に聞いた。
―反対者がいなければ「上乗せ徴収」や「天引き」をしてもいいのでしょうか?
「問題がないとは言えません。自治会の総会で、多数者が上乗せ徴収に賛成している中で異論を唱えることは困難です。従って反対者がいないとは言い切れません。他方、反対者がいないことを確認するため、募金への賛否を意思表示するよう強制することも思想・良心の自由(憲法19条)の侵害に当たります。上乗せ徴収や天引きの是非を住民に問う行為自体に、思想・良心の自由を抑圧する要素が含まれています」
―数百円の募金で思想・良心の自由の侵害とは大げさだとの声もあります。
「大げさではありません。江戸時代の『絵踏み』が典型例です。内心を公にすることを望まない人にとって、それを強いられるのは多大な苦痛です。募金に対する賛否であっても同じことです」
―募金が任意であったとしても自治会役員が戸別募金に来たら「断りにくい」といった声も多く聞かれます。
「自治会役員が来れば、実質的に強制になりかねません。『寄付者の自発的な協力を基礎とする』という共同募金の趣旨に反します。共同募金の趣旨に立ち返り、主催者である県共同募金会が、自らの組織で募金を集めるべきではないでしょうか」
[常会(自治会)による募金集め]常会が赤い羽根共同募金や緑の募金、社会福祉協議会費、日本赤十字社の活動資金を集めるのは、それぞれの主催団体から依頼を受けているためだ。赤い羽根共同募金の場合、長野県内では主催団体の県共同募金会が77市町村ごとにある下部組織を通じて依頼している。緑の募金を主催する県緑の基金は県や市町村などと連携し、依頼。市町村社協の会費は社協が直接、依頼している例が目立つ。日赤の活動資金は77市町村の役場や社協に設けた日赤の窓口を通じて依頼している。ただ、いずれも任意の「お願い」だ。
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