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施錠中の津波避難ビル 命優先、ドア壊してもOK 浜松市は独自の補償制度

 「津波が来たら本当にビルに避難できるの?」。浜松市東区の70代女性からこんな質問が中日新聞のユースク取材班に寄せられた。「津波が来たら高いところへ逃げろ」は常識だが、マンションの多くはオートロックがかかっているし、公共施設は休館日や夜間は閉まっている。津波が到来するような時は、どこへどう避難するべきなのか。浜松市や専門家に聞いた。(中日新聞東海本社・高島碧)

浜松市五島協働センターで設置される津波避難ビルの看板=浜松市南区

 浜松市は静岡県の第4次地震被害想定を基に、南海トラフ地震が起きた際に浸水する恐れが見込まれる南、西、中区で「津波避難ビル」を指定している。3階建て以上で耐震基準を満たしたマンションや小中学校、公共施設の264件ある。一部は市のホームページで公表されているが、公共施設は休館日や夜間は施錠している。

 施錠中に津波が発生したら、どうすればいいのか。災害時、避難ビルのドアを壊した場合は市が独自に補償する制度がある。マンションのオートロックの解錠や小中学校の校舎へ入る方法は周辺自治会を通じて地元住民に周知してあるという。

 浜松市危機管理課の小林正人課長(54)は「子どもがドアのガラスを壊すのは難しい。大声を上げ、近くの大人に助けを求めてほしい」と話す。

 しかし、大人でも割るのが難しい強化ガラスのドアもある。焼津市は、避難ビルの市コミュニティ防災センターで出入り口脇の箱にハンマーを置いた。市地域防災課の担当者は「防犯と防災の兼ね合いは難しいが、これまでトラブルはない」と話す。

 そもそも、災害時、避難ビルに指定された建物かどうかを判断している余裕がない場合もある。公共施設には避難ビルの看板があるが、マンションでの設置は任意となっている。

 静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授は「避難目的なら他人の家に入っても犯罪にはならない。住宅でもビルでも高いところへ上ればいい」と話す。「ビル所有者が住民の一員となって防災を考える場が必要。普段から地域の中で緊急避難できそうなビルを決めておき、オートロックの解錠方法も協議しておくことが重要だ」と指摘する。

「民間でも協力の動き」

 民間の事務所を避難所として活用するルールを明確化する動きもみられる。浜松市南区の「笑(え)み社会保険労務士法人」は、災害時に一時避難場所として事務所を提供する協定を地元の芳川町大橋自治会と締結した。

 協定では、地震による津波や大雨による浸水被害が懸念される場合、事務所最上階の3階会議室などを一時避難所として、地元住民に開放する。

 事務所は普段オートロックで施錠されているが、自治会長の要請か法人の判断で解錠し、避難する住民に開放する。

 同自治会には約800世帯が所属する。昨年9月の台風15号では、地区内の道路が冠水したほか、地震の際の避難所に指定される南陽中学校の体育館が床上浸水の被害を受けた。

 同法人の鈴木美江代表社員と中野慶一自治会長、事務所の土地所有者の桑原芳弘さんが協定書を交わした。鈴木さんは「一時的に避難できる場所として、地域で活用していただければ」と述べた。(中日新聞東海本社・渡辺真由子)

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