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広電の路面電車「各駅停車」なのでは 降車ボタン押す必要ある?

 「各駅停車」なのでは? 広島市中心部で広島電鉄の路面電車に乗ると、いつも疑問を感じていた。車掌が乗務せず、運転士1人によるワンマン運転の車両。下車の際は降車ボタンを押すよう案内板に注意書きがある。ただ、ブザーは鳴らず、ホームに人影がない場合でも各電停に止まっているようにみえる。果たしてボタンを押す必要はあるのだろうか。(中国新聞・金刺大五)

広島電鉄のワンマン車両に設置されている降車ボタン

 ここ2カ月ほど通勤中に横川駅(西区)発の車内を注意深く見てきた。5人が出口付近に並び「誰か押すだろう」と結局、無音のケース。ホームに入るタイミングで我慢できなかったように音が鳴ることも。ボタンを巡り乗客のさまざまな心の「葛藤」を垣間見た。ただ、どんな場合もしっかり停車し、電停を通過するようなことは皆無だった。

 1月の平日午前、横川駅―江波間を往復して確認した。途中の電停は計20あり全てに停車。このうちブザーが鳴ったのは10電停。ブザーは鳴らなかったが、ホームに人がいたのは6電停。計16の電停で運転士は事前に乗り降りが確認できる状況だった。

 一方、ブザーなし、ホームに人なしは残りの4電停。それでも電車は止まった。うち1電停ではブザーによる通告はなかったが、扉が開くと慌てるように1人が下車した。

 「やっぱりおかしい」。満を持して中区の広島電鉄本社に尋ねると、即答で「ブザーのあるなしにかかわらず、必ず各電停に止まっている」と説明を受けた。各停は確定していた…。拍子抜けした。

 ではなぜ降車ボタンがあるのか。広報・ブランド戦略室係長の森直樹さん(49)は「降りる意思を事前に把握できると、運転士はとても助かる」と強調する。運転の他にも運賃の収受、扉の開け閉め、アナウンスなど1人で何役もこなすワンマン車両。降車のチェックや扉を開けておく時間の心積もりができる意味合いは大きいという。

 乗客側も降りるのを待ってくれるという安心につながり、車内の安全性も高まるとしている。

横川駅の電停にある案内板から抜粋。単車では降りる際、降車ボタンを押すよう求めている。一方、複数車両の連接車にはボタンはない

 同社によると1969年、白島線で初めてワンマン運行を導入した際、路線バスに倣い、ボタンを設置した。以後、ワンマン運行の路線拡大とともにボタンも各車両に据えられた。

 しかし今のように各停になったのは2009年7月から。それまでは通過することもあった。ボタンを押していないため車内を焦って移動し、転倒する高齢者の事故が相次ぎ、運用を改めたという。

 他都市の路面電車では、京都市内を走る嵐電(京福電気鉄道)は広電と同じ運用。ボタンはあるが、通過はない。一方、岡山市内を走る岡山電気軌道の路面電車は「路線バスに近い運用」(電車事業部)でブザーが鳴らず、乗客がいないようなら通過することもある。その際、アナウンスで降りる客はいないか確認を取るという。

 運転士にも乗客にもメリットが見える広電の降車ボタンだが、各停について掲示やアナウンスはない。実際に「全て止まるのに、なぜ降車ボタンがあるのか」という問い合わせがあるという。森さんは「乗客のニーズや時代の流れを踏まえ、案内を工夫していきたい」と話す。

横川駅電停で利用客が乗り込むワンマン車両

 手押し車を押す西区の女性(80)の声を聞けた。週3日、通院で利用し「もし通過したら、次の駅から引き返すのが大変。不安なのでなるべく早くボタンを押している」。座ったまま頭上にあるボタンを押すのはとてもしんどいともこぼしていた。連絡先を聞かなかったので、この場で伝えたい。「必ず止まります。慌てなくても大丈夫ですよ」

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