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「都会風吹かさぬよう」「品定めされる自覚を」 福井・池田の移住者心得、波紋広げる

 移住・定住政策に力を入れている福井県池田町で、区長会の提言として移住者の心得を説いた「池田暮らしの七か条」が広報誌に掲載され、町民の間に波紋が広がっている。「都会風を吹かさないよう心掛けて」「品定めがなされていることを自覚して」などの文言が並び、福井新聞の調査報道「ふくい特報班」(通称・ふく特)には「高圧的」「移住の選択肢から外されてしまう」と反発する声が寄せられた。

「広報いけだ1月号」に掲載された区長会の提言

町広報誌に掲載 町民「なぜ上から目線か」

 町が1月中旬に発行した「広報いけだ1月号」に掲載された。区長を通じ約900世帯に配られたほか、町ホームページにも掲載されている。

 「池田町の風土や人々に好感を持って移り住んでくれる方々のための心得」と前置きし、地域行事への参加などを促している。第4条では「今までの自己価値観を押しつけないこと」とし「都会風を吹かさないよう心掛けてください」。第5条には「品定めがなされていることを自覚してください」などと記してある。

 「ふく特」のLINE(ライン)には町民の一人が「郷に入っては郷に従えと言いますが、これはひどい言い方」とメッセージを寄せ、「今いる移住者の方は面白くないですし、これから池田に行こうと考えた人の選択肢から外されるでしょう」と続けた。

 別の町民は「時代に逆行している。移住してほしいのに、なぜ上から目線なのか理解に苦しむ。田舎の人間の高圧的な感覚が見えて本当に嫌」と投稿した。

 町民に話を聞いてみた。結婚を機に同町で暮らす町外出身の女性は「『品定め』って上下関係があるみたい。過疎化が進んでいるのに、町はどういう意図で広報誌に載せたのか」。県外から数年前に移住してきた住民は「『都会風を吹かせないで』という文言にショックを受けた」という。「素晴らしい町民ばかりなのに、変な確執を生みかねない。私は地元の人と移住者を区別することすら意味がないと思う」と複雑な表情を浮かべた。

 池田で生まれ育ったという住民は「えざらい(用水路の清掃)や枝打ちなど、地味な営みの延長線上に田舎暮らしがあるのは確か」とする一方で「広報誌に載ると、町民みんながそう思っていると捉えられてしまう。移住者の目線も交えるべきだったのでは」と話した。

「歓迎不変、あつれき防ぐ」

 池田町などによると、「七か条」は昨秋から区長会で検討を始め、昨年末の区長会総会で決定したという。約2300人と県内市町で最も人口が少ない町で、移住者との間によほどのもめ事があったのか。

 昨年末まで区長会長を務めた男性(68)に尋ねると、「個別に重大なトラブルがあったわけではないんです」と切り出した。

 男性によれば、集落の集会や行事が年々少なくなり、参加に消極的な人もいて、コロナ禍でさらに拍車がかかった。年配者の間で募っていた「独自の風土、池田の良さが失われてしまう」という危機感を踏まえ作成に取りかかったという。「どの町民も集落の義務は最低限果たしてもらいたい。かといって、あつれきを生んだり、池田に来て『こんなはずじゃなかった』と逃げてしまったりするのを防ぎたかった」。原案に修正を重ね完成させた。

 「刺激的とも受け止められる言い回しは不適切だったかもしれない。ただ、今後も新たな町民を受け入れていく目的だと理解してもらえたら」と男性。「町とも相談して、誤解を解く話し合いの場を設け、皆が気持ちよく共存できるようにしていきたい」と語った。

 同町は地域おこし協力隊員を積極的に受け入れてきたほか、空き家情報バンク、住宅新築補助制度などに力を入れ、年間20人程度が移住してきている。

 事務局として作成に携わった町総務財政課に聞くと「従来と同様、区長会の取り組みを周知するため広報誌に掲載した」と説明。森川弘一課長(55)は「移住ウエルカム、という町の政策に変わりはありません」と言い切った。(福井新聞)

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