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トランスジェンダー男性に届いた「女性がん検診」案内 もし同居人に見られていたら… 東京・足立

 男性として生活しているトランスジェンダーの会社員から「女性特有のがん検診の案内はがきが届いた」と相談が寄せられた。内容がはがきの表に書いてあるので、戸籍上は女性だということが周囲に知られないか不安だという。はがきを出した自治体に見解を聞いた。(東京新聞・奥野斐)

「乳がん」「女性がん」の字が並ぶ封筒やはがき。(右)は2019年に足立区が送っていたもの ※※ =足立区役所

 会社員は、東京都足立区のシェアハウスで暮らしている。他の住人には、戸籍上の性別を明かしていない。

 郵便物の受け取りポストは住人が共有している。会社員は2019年、「女性がん検診」と表に書かれた子宮頸(けい)がんなどの検診案内はがきを足立区から受け取った。昨年は「乳がん予防セット」と書いてあるセルフチェックキットが入った封筒が届いた。

 どちらも、他の住人より早くポストを開けたが、これはたまたま。「もし先に誰かに見られていたら…」と思うと気が気でない。

 「アウティング(性自認などを本人の同意なく暴露すること)の危険性もある。性に関わるデリケートな言葉や内容を表面に書かないでほしい」

 足立区は住民基本台帳の性別・年齢に基づいて、乳がん予防セットや「女性がん」と書かれた案内を送っている。データヘルス推進課の半貫(はんぬき)陽子課長は「乳がんや子宮頸がんは若い人の罹患(りかん)率が高く、検診を受けて早期発見につなげてほしい。目に留まるようにした」と説明する。

 会社員は、足立区から最初に女性がん検診のはがきを受け取ったとき「対象者の性別が分かるようなやり方はやめてほしい」と区に伝えた。その後、区は会社員に女性がん検診の案内は送らないようにしていたが、事務処理ミスがあり、乳がん予防セットを郵送してしまったという。

 都内の別の区に住んでいた時も、足立区と同じような女性対象のがん検診の案内だということが表から分かるはがきを受け取ったことがあるという会社員は「皆が安心して暮らせるような案内・送付の仕方に改善できないでしょうか」と要望した。記者が半貫課長に伝えると「その方には申し訳なかった。受診率向上と配慮を考え、当事者の方の意見を聞きながら、どういう形が望ましいか検討したい」と答えた。

 参考になる例はある。世田谷区は、封筒の外から性別が分からないよう「検診のご案内」などと、どんな検診か明示せずに送付している。「性的マイノリティーに限らず、性別を知られたくない人もいる。個人情報保護の面からも必要な対応をしている」(担当者)という。

[性別の変更]戸籍の性別を変えるには、18歳以上▽婚姻中でないこと▽卵巣や精巣など生殖腺の機能を永続的になくす―などの要件を満たした上で、家庭裁判所に申し立てる。変更内容は住民票のある自治体に通知され、住民基本台帳に反映される。身体的、経済的負担などから性別適合手術を受けず、戸籍上の性別を変えないトランスジェンダーも少なくない。総務省は2016年、性別記載のない住民票記載事項証明書を交付できると自治体に通知し、配慮を求めた。

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