(530)砂丘越え一瞬にして海の蝶/矢吹湖光(生年不詳)
砂垣の辺りを漂っていた蝶(ちょう)がすっと越え、海へ高く去る。一瞬にして海の蝶、だ。仏教では極楽浄土に魂を運ぶ神聖な生き物が蝶だという。死者の魂を宿して舞い上がる蝶。大海はただ尋常にそこにある。大津波以前、豊かな生態系を持っていた仙台湾の砂浜の景色が想像される。壁のような大防潮堤はどうにもし難いが…
関連リンク
- ・(529)春水満たす五臓六腑に原子炉に/大河原真青(1950年~)
- ・(528)日陰より眺め日向の春の水/深見けん二(1922~2021年)
- ・(527)焼山に風のゆくへを知りにけり/舘野まひろ(2001年~)
- ・(526)卒業や餃子に韮(にら)の色透けて/岩田奎(1999年~)
- ・(525)一斉に振り向きさうな黄水仙/抜井諒一(1982年~)
「秀句の泉」は、俳句の魅力を伝えます。執筆は俳人の永瀬十悟さん(福島県須賀川市)、浅川芳直さん(宮城県名取市)、及川真梨子さん(岩手県奥州市)の3人。古典的な名句から現代俳句まで幅広く取り上げ、句の鑑賞や季語について解説します。