地震保険、3・11でも過小判定 仙台の複数マンション 修正後の支払額2~10倍に

政府と民間の保険会社が共同で運営する地震保険で過小判定が相次いでいる問題で、東日本大震災の際に仙台市の複数のマンションも過小判定を受けていたことが、地震保険問題に取り組む1級建築士への取材で分かった。大半は保険会社の最初の鑑定で日本損害保険協会(損保協会)の認定基準を正確に適用していなかったのが原因で、修正後の保険金額は2~10倍に増えた。

AMT1級建築士事務所(東京都)の都甲栄充代表が住民の求めで調査に携わった主なマンションは表の通り。5棟で当初計1億3300万円だった保険額は計5億3000万円へ激増した。
仙台市若林区大和町のマンションは共用部分の廊下や壁に多数の亀裂が入り、仙台市の被害認定で「全壊」の罹災(りさい)証明を受けた。
だが、保険金の支払いを受けるための保険会社の鑑定は、廊下や外観を見ただけで「一部損」の判定だった。保険金は保険額の5%に当たる1900万円。「ほとんど何も直せない金額だった」(当時の管理組合理事)
保険会社の4回の再調査でも結果は変わらず、都甲代表が5回目の調査に立ち会って柱のひび割れを見つけ、判定は「半損」に、保険金は1億9000万円に覆った。
元理事は「管理組合は、地震保険の知識がないので保険会社のいいなりになるしかなかった。半ば諦めていた」と振り返る。
損保協会の認定基準は明らかになっていない。
都甲代表がこれまでの経験などから導き出した想定によると、マンションのような鉄筋コンクリート造の場合、柱やはりに幅1ミリ以上のひび割れが見つかった場合、「一部損」以上の判定になりやすい。一方、幅が1ミリ未満だと、損傷がいくつ見つかっても「一部損」にしかならない。
損保協会の広報担当者は「過小判定が頻発しているとは認識していない。認定基準に沿って適正な調査をして、判定している」と話した。
[地震保険]民間保険会社の保険責任を政府が再保険する。加入は任意。マンションの場合、共用部分と専有部分で分かれ、共用部は管理組合、専有部は区分所有者が加入する。保険額は区分所有者ごとに建物で計5000万円、家財1000万円。全損(保険金額の全額)、大半損(同60%)、小半損(同30%)、一部損(同5%)の保険金が支払われる。2016年の契約までは全損、半損(同50%)、一部損(同5%)だった。東日本大震災の支払総額は約1兆3000億円。自治体が発行する罹災(りさい)証明の全壊や大規模半壊、一部損壊とは違う。
マンションの被害判定基準判明 「一部損」「小半損」境目は1ミリ以上のひび

政府と保険会社が共同で運営する地震保険で過小判定が相次いでいる問題で、非公表になってきたマンションの被害判定の基準が、裁判記録や河北新報の取材で明らかになった。保険額が5%の「一部損」と30%の「小半損」の境界は、柱に幅1ミリ以上のひび割れがあるか、ないかだった。
判定は地震による物理的損害を時価割合に換算して算出する。50%以上なら「全損」になり、保険金額が100%支払われる。「一部損」の場合、保険金額は5%になるため、全損に比べ20分の1の支払いになる(表1)。

保険会社による鑑定は、マンションの各階のうち、最上階を除いた最も被害がひどい階の共用部分が対象。非公表の基準を使い対象階にあるそれぞれの柱の損傷度合いをI~IVの4段階で評価する(表2)。「ひび割れ幅が0・2ミリ未満」はI、「ひび割れ幅が0・2ミリ以上1ミリ未満」はIIと分類する。

最終的に全体の柱の数のうち、損傷の程度Iの柱の割合、IIの割合、IIIの割合、IVの割合を出し、換算表でポイントを合算する(表3)。

損傷の最もひどい階の柱の数が20本だとすれば、そのうち程度Iの柱が3本の場合、物理的損害割合は15%で1ポイント。さらに程度IIの柱が5本あれば損害割合は25%で6ポイントとなる。合算した7ポイントが時価換算の損害割合の7%になり「3%以上20%未満」の「一部損」の判定となる。
全ての柱に程度Iの損傷があっても5ポイント、同じく程度IIも最大13ポイントのため、合算した18ポイントは18%として「一部損」にしかならない。「一部損」以上の判定を受けるには程度III「ひび割れ幅が1ミリ以上5ミリ未満」以上の損傷が最低でも1カ所必要になる。
鑑定の対象になるマンションの共用部分は、廊下側だけでなくバルコニー側にも当てはまる。対象の階の住民から許可を得てバルコニー側も鑑定できるようにしておくことで、より正確な判定につながる。
地震保険の過小判定問題に取り組むAMT1級建築士事務所の都甲栄充代表は「管理組合と住民の連携がスムーズだと調査がうまくいきやすい。基準を参考に保険会社と交渉し、うまくいかないときは1級建築士のような専門家に相談してほしい」と話す。
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