(609)黄昏(く)れてゆくあぢさいの花逃げてゆく/富澤赤黄男(1902~1962年)
「紫陽花(あじさい)の花が逃げる」がずっとわからなかったのですが、ある時これは色彩の句なのではと思い至りました。黄昏(たそがれ)の世界は、夕方の薄黄色から西の空を照らす橙(だいだい)色へ、薄暗く灰がかった色から夜に向かう藍色へ、そして日の沈みきった闇の色へと変わっていきます。天気や見る人の主観でも…
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「秀句の泉」は、俳句の魅力を伝えます。執筆は俳人の永瀬十悟さん(福島県須賀川市)、浅川芳直さん(宮城県名取市)、及川真梨子さん(岩手県奥州市)の3人。古典的な名句から現代俳句まで幅広く取り上げ、句の鑑賞や季語について解説します。