少年野球の給水係、なぜ女性だけ? 大会規定に疑問「性別役割を変えていかないと」
「横浜市で行われている少年野球大会の規定で、給水係が女性に限定されているのはなぜでしょうか。男性でも女性でも関係なくできる役割では?」。神奈川新聞社に保護者の女性からこんな疑問が寄せられた。「追う! マイ・カナガワ」取材班が女性の疑問を追ってみた。
「母親がやるべきだ」という慣例に違和感
女性が指摘する大会は「神奈川新聞社旗争奪 横浜市少年野球大会」。40回以上開催されている歴史があり、横浜市少年野球連盟学童部が主催している。
取材班が同大会規定を調べてみると、「『給水係り』の条件 選手保護者(女性)2名以内」と、確かに文言があった。他の県内の連盟や、都内でも女性限定がほとんどだった。
声を寄せてくれた保護者の女性は地域の野球チームを見学した際、給水などの当番は「母親がやるべきだ」という慣例に違和感があったという。「急な仕事で、夫に代わってもらう場合もあります」と説明しても「お父さんは練習に加わってもらうので、当番はお母さんが行ってください」と言われ、受け入れてもらえなかった。
「性別役割を強調する風潮を変えていかないと、少年野球界全体も変わらないと思う。大会規定も何らかの策を講じてもらいたい」と、女性は訴える。
同連盟学童部に取材を申し込むと「まずは何試合か見てほしい」と連絡があり、保土ケ谷区内の球場で開かれている大会に向かった。
「お母さんの方が子どもたちに目配りできる」
横浜市保土ケ谷区内の球場では35度の炎天下、白球を追いかける元気な子どもたちの姿や、冷えたタオルや飲み水をベンチ内で子どもたちに手渡してサポートする母親らの姿があった。
同市少年野球連盟学童部によると、大会ではベンチに入れるのは代表1人、監督1人、コーチ2人以内などと人数が限られている。女性に限定した「給水係」を置かなければ、ベンチに入るのはコーチばかりとなり、競技に集中し過ぎて本来の熱中症対策の役割が果たせないことが多々あったという。
少年野球ではコーチや指導者に男性が多いため、ベンチに入れる人数の一部を女性に限定することで、性別のバランスを取るのも理由の一つだという。
大会関係者の男性は「指導者が給水係としてベンチに入っても、野球の試合に集中してしまい、子どもたちの体調管理に目が行き届かなくなってしまう」と説明。別の関係者の男性も「お父さんよりお母さんの方が子どもたちに目配りできるので、うちの大会では女性に限定しています」と話していた。
そもそも「給水係(女性)」という標記はいつからあるのか。横浜の学童部などが加盟する全日本軟式野球連盟(東京)に聞いてみた。
同連盟によると、「競技者必携」という大会などに運用するルール本を毎年発行し、各都道府県の大会規定もそれにのっとって運用されているという。熱中症対策の一環として2014年の主要大会から保護者の女性2人を給水係としてベンチに配置することを認め、配置は各チームの任意となっているという。17年に同書にも記載され、大会規定として全国に広まった。
女性限定の理由は横浜の学童部と同じく、「体調管理の保護者と称して指導者をベンチ入りさせるケースを防ぐため」だったと説明する。
一方で、同連盟は22年発行の同書から「女性」という文言を取り除いた。事務局は「トレーナーや消防士、救急救命士の方など、男女関係なく給水係として入ってもらうのが本来必要なこと」と話す。それでも、横浜の学童部のように女性の保護者限定とする大会が多いのが現状のようだ。
同連盟は「学童チームへの保護者参加についての考え方(通知)」を今年6月に発信した。通知には、「自分たちの今までの『当たり前』を見直す事も大切です」とある。
ただ、この通知は給水係の性別役割の是正を指摘しているわけではないという。「各支部の決め事に関して、連盟が強制的にそれは駄目だとは言えないので、通達として考え方を伝えている」と同連盟の小林三郎専務理事は話す。
新聞社に相談した女性の気持ちは重い。「結局、少年野球連盟の考え方が変わらない限り、各チームの保護者の役割も変わらず、性別にとらわれているんだと思います」
「性別ではなく個人の性質の問題」
スポーツとジェンダーが専門の大阪大人間科学研究科の岡田千あき教授にも話を聞いてみた。
岡田教授は「まず、給水係を女性に限定する説明で『気が回る、目が届く』というのは、性別ではなく個人の性質による問題です」と説明する。
その上で、「『給水係が必要』という議論と、『女性の必要がある』という議論は本来分けて考えるべきです」と話す。「例えばベンチ内の性別不均衡を解消するのが目的なら女性コーチや選手が増えるように働きかけたり、指導者が給水係として入ることを防ぐのが目的ならば、チェックする体制をいくつか考えて是正するべきです」と説く。
自身も保護者として野球チームに関わってきた岡田教授。「ジェンダーに限らず髪形なども含めて、多様な価値観の浸透を受け止める姿勢が、少子高齢化で競技者人口が減っているスポーツ界、特に野球界には求められていると思います」
(神奈川新聞)
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