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窮地の伴走者 - 石巻・民間シェルターの活動から (3)知ってほしい

入居者の女性(右)と談笑する高橋さん

<支援の手、困窮者に遠く>

 「車中泊をずっと続けている」「ガスを止められて1カ月風呂に入れていない」。新型コロナウイルスの感染拡大後、石巻市のNPO法人「やっぺす」のもとには切迫した状況の相談が増えた。

 担当者は地域にある恒常的な貧困の存在を指摘する。「コロナが原因というより、それまでもぎりぎりだった人たちが、とうとう暮らせなくなったという感じ」。長引く物価高騰も困窮に拍車をかける。2022年は住まいを失う危機に対応した事例が64件もあったという。

 法人が運営するシェルター「やっぺすハウス」の相談員を務める高橋智恵さん(39)が支援する入居者の中に、赤ん坊を育てる20代の女性がいる。女性は家族との生活を諦め、10代で家を出た。事情を理解してくれた飲食店でアルバイトをし、知人宅を転々として暮らしていた。

 コロナによる営業時間の短縮で生活費もままならない中、妊娠が分かった。「これ以上は知人に迷惑をかけられない」。母子手帳をもらった時に知ったハウスへの入居を決めた。貯蓄はなく、臨月を迎えていた。

 女性はそれまで、公的機関に相談したことがなかったという。「頼るのは恥ずかしい」という意識があった。「相談先を知らなかったし、知っていてもきっと行かなかった」

 高橋さんは「ぎりぎりまで耐えて、困り果ててからハウスに来る人も多い。『助けてとは言いにくい』『保護を受けるのは恥ずかしい』と思ってしまっている」とおもんぱかる。

 こども家庭庁は児童相談虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」を19年に無料化するなど、相談しやすい環境整備を図るが、石巻地方の児童虐待などに対応する県東部児童相談所の福島伸一副参事兼統括次長は「児相に相談に来るのは子どもにとって相当なハードルだ」と現状を語る。

 行政などが差し出す支援の手が、困難に直面した当事者には遠く映る。高橋さんは同時に、困窮者自体が地域から見えにくい存在になっていると感じる。

 「そんな人、石巻にいるの」。連携する住民や企業に向けた法人の活動報告会で、所持金が数十円しかなかった人の話をした時、参加者が戸惑いの声を上げた。高橋さんらにとっては日常的に接する事例だった。地域の認識との間にある大きな隔たりを痛感した。

 法人はバザーを開くなどして、地域と困窮者支援の接点を増やそうと模索する。高橋さんは「手を差し伸べなければ生きることすら難しい人が増えている。人ごとと思わず、助け合うことが当たり前の社会になってほしい」と願う。

   ◇

 新型コロナウイルス禍前の平穏を取り戻しつつある社会で、さまざまな困難の中に取り残された人たちがいる。石巻市内の民間シェルター「やっぺすハウス」には、虐待を受けるなどして住む家から逃れた女性が寝食の場を求めて身を寄せる。施設を運営し、窮地に立つ人を伴走支援する同市のNPO法人「やっぺす」の活動を取材した。(西舘国絵)

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