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2023ニュース回顧 取材ノートから > 処理水の海洋放出 風評や禁輸、漁業者苦悩

水揚げされたホヤ。処理水放出後、さまざまな水産物が影響を受けている

<採算取れず廃業も懸念>

 「東日本大震災から立ち直ってきたところなのに、これでは逆戻りだ」

 「これまでの苦労が水の泡。終わりも見えず、仕事を続ける気力がなくなりそう」

 8月24日に始まった東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出。30年程度続くとされ、水産業の関係者は放出による海外の禁輸措置や風評被害、価格の下落などに苦悩しながら日々の仕事に励んでいる。

 県漁協や石巻魚市場買受人協同組合などの地元水産関係団体は風評被害を懸念し、国や東電に放出反対を訴えてきたが、漁業者と交わされた「地元の理解なしに放出は行わない」という約束は守られなかった。

 「生産者はみんな怒りを通り越して疲れている」。石巻市寄磯浜の水産加工会社「マルキ遠藤」の遠藤仁志社長(60)は、市場に出せないまま高水温でホタテが死滅していまう海洋環境の事情を考慮しない補償内容に憤る。西村康稔経産相(当時)の石巻初訪問は就任から10カ月後の今年6月と遅れに遅れた。

 マルキ遠藤は昨年、香港に約1トンのホタテを毎日のように送っていたが、禁輸で出荷を停止した。毎シーズン約3000万円にもなる売り上げもほぼゼロになった。

 ホヤについては4月、米国の取引先から「今年の注文は、水を流す前のもの」との依頼を受けた。例年の出荷は6月半ばから8月半ばだが、時期を早め5月から出荷。今年の注文は40トンだが、来年以降は白紙だという。

 中国などが日本の水産物の禁輸措置を取ったことで、海外に流れていたものが国内流通に回り、単価が落ち込んだ。アワビやナマコの価格も下落しており、漁業者の間では、採算が取れず、辞めてしまう人も出てくるかもしれないという懸念が広がる。

 震災後に漁師となった渡辺隆太さん(39)=石巻市谷川浜=も「漁業者の努力が無に帰してしまうのは悲しい。若い世代が海の仕事を続けられるようにしてほしい」と願う。

 石巻地方の水産業は不漁や資材高騰に苦しみながらも、復興の歩みを進めてきた。海洋放出後も石巻市では水産関係者らが市長に雇用の維持・確保、新たな魚種に対応する設備投資などへの支援を求め、苦境を乗り切る策を模索している。

 国は風評対策や水産業支援の基金などとして計1007億円を確保。ホタテの学校給食支援費なども盛り込むといった対応をしているが、地域の産業を守るため、関係者に寄り添った支援を続けてほしい。(大谷佳祐)

■メモ 
 処理水は海底トンネルを通じ、約1キロ沖合の海底に放出している。東京電力福島第1原発にたまる保管量は21日時点で約132万トン。本年度は3万1200トンを流す計画。これまで計3回、それぞれ約7800トンを17日間程度かけて流してきた。本年度最後となる4回目の放出は来年2月下旬に始まる。

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