達人、辰人2024 (5) ブルーインパルスに搭乗撮影 航空写真家・黒沢英介さん
重力に身を任せ、躍動追う
ブルーインパルスを初めて撮影したのは「110(ワンテン)カメラ」と呼ばれる小型カメラだった。「小さくしか撮れなかったけど、手元にブルーがあるのがうれしかった。パイロットが手を振ってくれている気がした」。航空写真家の黒沢英介さん(53)=仙台市=は、小学生の時に出合ったブルーを追い続ける。
ブルーインパルスは航空自衛隊松島基地(東松島市)の曲技飛行チーム。黒沢さんは搭乗を許された数少ない写真家の一人で、多くて年に5回の搭乗機会がある。躍動する機体や立体的なスモーク、背後に広がる景色を捉えた美しい作品が、ブルーファンに限らず多くの人を引きつける。
東松島市大曲浜地区の母の実家を幼い頃から訪れていた。5年生の夏休みに空を飛ぶ青い機体と白いスモークに衝撃を受け、写真を撮り始めた。手信号で機体を誘導する整備員に憧れたが、花火の事故による左目の失明で厳しいと分かり、高校の時に目指すのを諦めた。
「それなら好きな写真で近づこう」。仙台の専門学校で学び、出版社でキャリアを積みながら航空専門誌に写真の投稿を続けた。ブルーのガイドブック製作にも携わり、29歳で独立。搭乗許可はなかなか下りなかったが「実績を積めばチャンスは来る」と信じ、35歳の時に搭乗を許可された。
機内ではパイロットと同じ耐Gスーツや酸素マスクを着ける。初めは乗るたびに気持ち悪くなり落ち込んだが、パイロットに「年2、3回しか乗れないのにあれだけの写真を撮れるのがすごい」と励まされ、「重力に負けないなんて無理。身を任せよう」と吹っ切れたら酔わなくなった。
2022年に東松島市内にギャラリーができた。在廊時は訪れた人とブルーの話題に花を咲かせ、撮影の相談に応じる。後進の育成に気を配り、2人の弟子も搭乗許可を得て撮影に励む。
40年以上の撮影歴にもかかわらず「季節や時間帯で違って見える。日々一期一会でいつも新鮮」と黒沢さん。「ずっと心をわしづかみにされている。追いかけられるだけ追いかけ、ブルーのかっこいい瞬間を残したい」
(及川智子)
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