発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方 > 著者・佐藤敏幸さんに聞く(下)
連載「発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方」の著者東北学院大博物館学芸員佐藤敏幸さん(60)は「歴史は未来を知ることにもつながる」と話す。(聞き手は藤本貴裕)
<歴史は未来知るヒント>
-県境や市町村境を意識しがちな現代。連載を通して、人々の行き来がとても広範囲で、活発に見えると感じた。
「人が動くのには交通手段が必要。古代の律令制ができる前の古墳時代、飛鳥時代は陸でも海でも構わなかった。例えば丸子氏(後の道嶋氏)が千葉から石巻まで来るのに、おそらく船で動いた方が早かった。人も多く運べ、物をたくさん運べる。海を媒介にしながら、人がよく動いていたと考えられる」
「大崎地域や岩手県胆沢地域に移動するには陸も使うが、おそらく川もたくさん利用した。物も人も動くには、川を使っていた。奈良まで直線距離で750キロもある。今のように車があるわけではない。せいぜい馬。水運と陸運を駆使しながら、広範囲に移動していた」
「律令国家は当時、山を切り崩しながら、高速道路のような真っすぐな道路を造った。交差点を作り、そこに駅家(うまや)という駅を置く。馬を交代させる労力は公民を使役して作らせるということを行っていた」
-石巻地方に海道という地理的概念があった。
「東海道は常陸国まで、茨城までで止まる。延長部として、阿武隈川の河口部、岩沼の玉前駅家(たまさきのうまや)まで『海道』と呼ばれる陸路、道を造った。さらにその先、多賀城よりも北側について、海道のブロックと山道のブロックとに分けて呼んだようだ。ここら辺になると海道は地域名になる」
「石巻周辺で歴史書に出るのは大体海道の蝦夷の記事。反乱を起こすとか、ヤマト王権に背くというような文言で続日本紀に出てくる。行政ブロックとしては、大崎市の一番東の地域から牡鹿半島までの範囲を海道と呼ぶ」
-ほかの時代に比べ、古代は姿が見えにくい。
「縄文時代から古墳時代までは文字がない。文字史料が歴史書に載ってる部分はごく限られる。遺跡そのものや遺跡の発掘調査でしか昔のことを知る手だてがない。発掘調査から分かっていなかった情報を得る」
「考古学の技術は年々進んでいる。出土物の分析も詳細になり、年代もより詳しく分かるようになってきた。例えば赤井官衙遺跡では土器で年代をずっと決めてきたが、最近は木簡や柱材が出ると、その柱材の炭化物の炭素で、具体的な年代を知ることができる。つまり奈良時代の西暦何年にこの建物が建ってたのかっていうところまで、分かるようになってきた」
「また木の年輪は1年間の暖かさによって幅が違う。それでいつごろ最終伐採された木なのか、その柱なのかが分かる。炭素測定の年代と合わせながら、より正しい年代に近づけていく。例えば火災に遭った役所の建物はいつの頃の火災なのかとか、伊治公呰麻呂(いじのきみあざまろ)の反乱で焼けた可能性が高くなるとか、そういうことが具体的に分かってくる」
-1993年以降刊行された市史「石巻の歴史」は日本史と対比しながら叙述され、日本を代表する自治体として注目されている。
「市町村史は昭和30年代に第1期ブームがあり、市町村合併が進んだ平成になった頃に、第2次が来た。歴史をきちんと見直そうと市町村の歴史書が作られた。大抵は地元の研究者、専門家、学校の先生が執筆している」
「『石巻の歴史』はもちろん地元の専門の方も加わるが、第一線で研究している人などに執筆編集を依頼した。全国的な視野で石巻がその時代、どう位置付けられるのかということを細かく調べている。より詳細に、よりダイナミックに歴史が分かる。教科書通りに書くのは普通の市町村史だが、どこの部分が教科書と違い、どこが同じか具体的に分かる。全国的にも珍しく、非常に面白い」
-歴史を学ぶ面白さとは。
「東北、日本、東アジアのような広い範囲で、人がいつも行き来して動いていることが石巻を見ても分かる。そういうことを狭い範囲で考えずに、広い視野で見ると、歴史が面白くなり、地元の歴史が深く分かってくる」
「今、歴史は興味、関心の分野だけではなくて、将来につなげるための研究分野でもある。最近は過去の災害の歴史をひもといて、どんな規模、どのような範囲で災害があったのかということを調べる学問の分野もできている。同じように過去のことを調べることで、将来起こり得ることを予見することは、どう対応すべきか考えるすべにもなる。歴史は単なる過去のことではなくて将来を見据えるためのヒントなのだと思う」
関連リンク
- ・発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方 > 著者・佐藤敏幸さんに聞く(上)(2024年1月10日)
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