わいどローカル編集局 > 矢本(東松島市)
「わいどローカル編集局」は石巻地方の特定地域のニュースを集中発信します。13回目は「東松島市矢本」です。
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増すにぎわい 地区はタカに由来
東松島市矢本地区は人口密集地と田園地帯、交通の要衝など多様な顔を持つ。街の北側には田畑が広がる。農業が盛んで、ちぢみほうれん草の発祥の地と言われる。国道45号付近には住宅や商業施設が集まる。地区を貫く三陸沿岸道は石巻地方と仙台圏を結ぶ大動脈で、人と物が行き交う。
矢本町史によると、地区名の由来は舘下のケヤキにすみ着いた8羽のタカ。狩りに使うタカを古くは「本(もと)」と数え、「8本」のタカがいつしか矢本という表記に変わったとされる。1776年の風土記にある伝承のケヤキは根元がまだ残り、そばに碑が立つ。
曲技飛行チーム「ブルーインパルス」で知られる航空自衛隊松島基地は1955年に開設された。前身は42年にできた旧日本海軍の航空基地。戦後に米軍が駐留するなどして今日に至る。
基地の航空祭は市を代表する一大イベント。県内外から大勢の人でにぎわう。新型コロナウイルスの影響で中止が続いたが、昨年4年ぶりに通常開催にこぎ着け、約4万人のブルーファンが来場した。
JR鹿妻駅の北西1キロにある滝山公園は桜の名所として有名。ソメイヨシノや八重桜など約600本が植えられている。開花時期には東松島観光物産公社主催の「滝山桜まつり」が開かれ、多くの花見客でごった返す。
観光スポットが豊富な矢本地区に11月、三陸道矢本パーキングアエリア(PA)とつながる道の駅が開業する予定。市が整備を進める施設は新たな観光拠点になりそうだ。
<矢本の「ホシナ」さん、星名? 保科?>
農業 星名一郎さん(70)は昔から矢本地区にいる「ホシナ」姓の歴史を追っている。一族は「星名」「保科」と表記が揺れながら続いている。「移り住んだのは安土桃山。いや、ひょっとすると平安時代以前かもしれない」。
星名さんは中学生の頃、市が誇る国史跡「赤井官衙(かんが)遺跡群」を構成する「矢本横穴」の調査現場を見学した。「先祖代々の流れの中に、今の集落がある」と実感したという。
鎮魂や豊作願い「鹿妻鹿踊り」 小中学生に継承
東松島市矢本の鹿妻地区に伝わる「鹿妻鹿(しし)踊り」は、地元で「八(や)ツ鹿(しか)踊り」と呼ばれ、住民に親しまれている。「民俗小事典 神事と芸能」(吉川弘文館)によると、宮城県や岩手県で盛んに行われているとされる。
鹿の頭をかぶり、1人で獅子1体となる。起源としては、狩猟で殺された鹿を供養する説や、奈良県の春日大社の山麓で遊ぶ鹿の姿をまねた説などがある。
鹿妻地区の鹿石神社の境内では春と秋の毎年2回、例大祭の際に踊りをささげる。鹿妻鹿踊り保存会会長の斎藤文孝さん(71)は「飢饉(ききん)で亡くなった人々の鎮魂や来年の豊作を願う意味合いがある」と説明する。
県史によると、明治後期から30年ほど途絶えていたが、1926(大正15)年ごろに復活した。「鹿妻鹿(しし)踊り」の流派は「奥山行山流」といい、8頭の鹿を模した8人が四角の陣形となり、太鼓を叩きながら歌う。
行山流は志田郡松山村(大崎市)が発祥とされる。仙台藩祖伊達政宗が鹿踊りを見て「げうさん也」(褒めたたえる言葉と思われる)という感想を残したのが語源という話がある。
太鼓や踊りは譜面がなく、口伝で伝えられてきた。2021年には市の無形文化遺産に登録。現在は地元の小中学生らに受け継がれ、保存会では月に2回の練習を設けて伝統芸能を守り続けている。
斎藤さんは「現在まで伝わってきたものを素直に正しく継承していくことが使命。人々が心のよりどころとしていた、鹿踊り本来の意味が込められた踊りを伝えていきたい」と語った。
道地長寿会、笑い絶えず 「もはや家族」
矢本地区に笑いの絶えない老人クラブがある。
JR矢本駅に程近い道地(どうち)の「道地長寿会」。ゲームの最中、出番が回ってきた星名健会長が「たつ年生まれの84歳、出身は…」と唐突に自己紹介を始め、旧知の会員が「今さら何を言っているの。知っているよ」とばかりに、どっと沸く。
道地地区センターに月2回集まり、東松島市社会福祉協議会などの支援を受けながら、ゲームや食事会を通して交流している。
初代会長は星名会長の伯父。会の活動は長く、ボランティアで参加していた人が高齢になって会員に加わるなど、参加して10年、20年たつ人が多数だ。
三浦サイ子さん(79)は50代のころから参加する。「互いの性格や家の事情など知っているので、もはや家族のよう」と仲の良さを強調する。
星名会長は「脳を活性化することで医療費の負担を減らせるよう、『ご老体』が仲間を作っている」と、またも冗談交じりに語った。
被災し再起 大江酒店、米農家の熱意届けたい
現在の店主で3代を数える東松島市小松の地酒専門店「大江酒店」。店内の酒は約150~200種、そのうち県内の地酒が9割ほどに上る。
3年前に父親から継いだ大江智尚さん(32)は「蔵元によって味わいなど酒の特徴は異なる。お客さんの好みに合ったものを選び、薦めている」。
店は元々、同市大曲地区にあった。東日本大震災で津波の被害を受け、店は全壊。再起に向け、市内の蔵元の倉庫の一角を借り、酒を販売していた。再び人が集まる場所を作りたいと現在の場所に再建した。
酒造業界とは別の仕事をしていた大江さんは代を継ぐに当たって猛勉強で知識を集積した。「今よりももっと良い店にしたい」。店の改革に取り組む。
冷蔵庫の温度管理と品質管理を徹底。酒を選びやすくするように、酒を蔵元別に並べたり、全ての酒に「プライスカード」を付けたり。度数や使用米、酒の特徴などを一覧で見られるようにした。
2021年から東松島市産の米を100%使用した純米吟醸酒「想~kokyo~」を販売。ブルーインパルスを描いたラベルを付け、大江酒店でのみ扱っている。
大江さんは「米農家のこだわりが込められた酒の魅力をもっと広められるよう、分かりやすい接客を心がけたい」と語る。
営業は平日と土曜が午前10時~午後8時半、日曜祝日は午前10時~午後7時。定休は毎週水曜と第3木曜。連絡先は0225(82)2343。
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今回は矢本販売店と連携し、西舘国絵、渋谷和香の両記者が担当しました。次回は「石巻市桃生」です。
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