三陸河北新報社、石巻地方3市町住民アンケート 震災考える頻度減らず 能登地震、震災想起か
三陸河北新報社は、東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻地方の3市町の住民を対象に、記憶の風化や心身の変化、復興への心境などを尋ねるアンケートを実施した。1年前に比べて震災の事を考える頻度が減っていない人は6割近くに上り、前年より約2割増えた。今でも心や体への影響がある人は4割を超えた。1月に発生した能登半島地震の影響も反映したとみられる。(震災アンケート取材班)
アンケートは2月中旬から3月初旬、記者の聞き取りや配布回収で実施。石巻地方の計337人から回答を得た。
震災について考える頻度を「減っていない」と回答した人は57.3%で、前年に比べ18.2ポイント増えた。家族や親類が犠牲になったり、震災で津波を見たりした人の方が回答する割合が高かった。
震災の影響で心や体が苦しくなるかという設問では「ある」「時々ある」の回答が計44.0%で、前年より9.5ポイント増えた。
考える頻度や心身への影響の増加について、東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(災害情報学)は「震災以後も2016年に熊本地震、18年に北海道胆振東部地震などがあったが、能登半島地震は津波を伴った災害だった。大津波警報の発表や数百名の犠牲者が出たことも震災を想起させ、結果に表れたのではないか」と分析する。
能登半島地震に関する設問では、震災の教訓が生かされていると感じる人が6割近くに達した。災害発生時の避難や避難所運営を挙げる声が多かった。生かされていないと感じる人は約3割で、事前の防災・減災の不備を選ぶ人が目立った。
自由記述では「震災の教訓が生かされ、被災後の対応は早くなったと思う。仮設住宅は当時より立派になった」(旧石巻市・50代)と評価する意見の一方、「(震災の)被災地であったことを他地域に伝えられていないと感じる」(旧石巻市・60代)との感想もあった。「若い世代では震災を知らない人も増えている。伝承が大切」(矢本・50代)との指摘もあった。
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〔1〕 1年前と比べて震災について考えることが減っていますか
<「減らず」前年より18%増 地震で思い出したか>
「(2)減っていない」と回答したのは57.3%で、前年より18.2%増加した。
被災状況別では「家族・親族が犠牲になった」を選択した人は(2)が65.4%で、選択しなかった人に比べて11.9ポイント高かった。「津波を見た」を選んだ人は6.5ポイント、「仕事や学業に影響があった」を選んだ人は5.4ポイント、それぞれ選択しなかった人を上回った。
世代別では60代が65.1%、40代が61.3%と高かった一方、30代は5割を唯一切り34.5%にとどまった。居住地別では河北が69.6%と最も高く、鳴瀬が66.7%、雄勝が65.0%で続いた。
「(1)減っている」の回答は35.0%で、前年と比較して18.4ポイント減少した。
被災地以外の人が震災を忘れて来ているかを聞いた設問では「忘れてはいない」が27.2%で、前年比6.5ポイント増だった。
能登半島地震の影響で、震災当時を思い出したり、教訓や伝承について考えたりする機会が増えたとみられる。
〔2〕 どれくらいの頻度で家族や友人と震災のことを話しますか
<月1回以上、6割が話題に 若い人ほど話さず>
「(1)ほぼ毎日」が5.2%、「(2)週1回程度」が12.4%、「(3)月1回程度」が39.7%で、月1回以上話すと答えた割合は57.3%だった。
年代別で「(4)ほとんど話さない」を選んだ割合は30代が69.0%で最も高く、10~20代が65.4%で続いた。30、40代は(1)がゼロ、30代は(2)もゼロで、若い世代ほど震災を話題にしない傾向がみえた。
震災のことを思い出す頻度を聞いた設問では「(1)ほぼ毎日」(16.5%)、「(2)週1回程度」(20.4%)、「(3)月1回程度」(38.9%)の合計が75.8%で、月1回以上思い出す人は昨年に続き7割を超えた。
居住地別で最も高かったのは鳴瀬で、(1)~(3)の合計は85.8%だった。次いで女川が83.4%、北上が78.9%だった。「(5)思い出したくない」は雄勝が30.0%で最も高かった。
年代別では、30代が「(3)月1回程度」「(4)ほとんど思い出さない」の合計が79.3%と、思い出す頻度が少ない傾向だった。
〔3〕 震災の影響で心や体が苦しくなることはありますか
<4割超、今も心身に影響 北上では7割に>
「(1)ある」「(2)時々ある」は計44.0%で、前年に比べて9.5ポイント増加した。
被災状況別では「家族・親族が犠牲になった」を選んだ人が計54.2%で、選ばなかった人を15.5ポイント上回った。「津波を見た」を選択した人は計48.2%で、選択しなかった人に比べて6.2ポイント高かった。
居住地別では北上が68.4%、次いで河北が52.2%、河南が51.4%だった。震災当時の居住地別でも北上が最も高く、桃生、河北が続いた。
身近な存在が犠牲になった人や、津波に直面した人が比較的高い傾向だったが、居住地別に見ると沿岸、内陸にかかわらず心身への影響が続いている。
年代別では70代が51.3%、60代が50.6%で半数を超えた。
「(3)あまりない」「(4)ない」は10代が計69.2%、40代が計67.7%、30代が計65.5%だった。
〔4〕 あなたの地域の復興はうまくいったと思いますか
<7割、好意的に評価 鳴瀬は9割好評 雄勝は6割否定>
「(1)思う」と「(2)どちらかと言えば思う」は計73.3%で、前年比で微増だった。「(1)思う」単独では前年より6.5ポイント高い28.4%だった。
住居地別で最も高かった鳴瀬は「(1)思う」(28.6%)と「(2)どちらかと言えば思う」(61.9%)が計90.5%だった。北上、女川、桃生も合計が8割を超えた。
雄勝は前年に続き否定的な回答の割合が唯一上回り、「(3)どちらかと言えば思わない」が40.0%、「(4)思わない」が25.0%だった。
年代別では、「(1)思う」が10~20代で53.8%と半数を超え、各世代で唯一割合が最も高かった。50代が最も低く18.4%だった一方、「(2)どちらかと言えば思う」は51.0%で過半数を占めた。
今後の被災地に必要な支援を聞く設問(複数回答)では「コミュニティーの構築」が24.7%で最多。女川や鳴瀬などの離半島部を抱える地区だけでなく、内陸の河南からも意見が多く集まった。
〔5〕 今後、自宅が津波や地震、水害といった災害の被害に遭う不安がありますか
<被災の不安、高まり7割に>
「(1)ある」と回答した人は71.9%で、前年と比べ11.8%増加した。居住地別で最も高かったのは雄勝の80.0%。鳴瀬、牡鹿がともに76.2%、河北地区が73.9%で続いた。
被災状況別では「津波を見た」を選択した人は(1)が79.3%で、選択しなかった人を10.5ポイント上回った。「家族・親族が犠牲になった」(74.8%)、「自宅が被災した」(72.2%)を選んだ人の割合も選ばなかった人よりやや高かった。
具体的に危惧される災害としては、地震や津波、水害のほか、家屋の倒壊、土砂崩れ、地盤沈下による浸水、北上川の堤防決壊などが挙がった。
家屋の倒壊や土砂崩れの被害が甚大だった能登半島地震のほか、県内の吉田川や名蓋(なぶた)川の堤防決壊など各地で台風・豪雨による洪水被害が頻発していることで、災害への危機感が増しているとみられる。
〔6〕 能登半島地震で、震災の教訓は生かされていると思いますか
<「生きた」過半数、高台避難に成果 課題指摘も>
「(1)生かされている」(17.3%)、「(2)どちらかと言えば生かされている」(38.8%)が計56.1%で、「(3)どちらかと言えば生かされていない」(23.3%)、「(4)生かされていない」(8.7%)の計32.0%を24.1ポイント上回った。「(5)分からない」は11.9%だった。
教訓が生かされたと感じられる部分(複数回答)では「災害発生時の避難」(29.2%)、「避難所運営」(23.4%)、「仮設住宅の整備」(20.1%)の割合が高かった。
一方、教訓が生かされていない部分(複数回答)では「事前の防災・減災」(27.8%)が最も多く、「避難所運営」(19.8%)、「災害発生時の避難」「インフラ復旧」(ともに14.8%)が続いた。
能登半島地震では津波による人的被害が少なく、迅速な高台避難などに教訓が生かされたと感じる人が多かった。一方で、家屋の倒壊が多発したり避難所の環境改善の必要性が報じられたりしたことで、教訓が生きていないと感じた人が多かったと推測される。
〔7〕 どれくらいの頻度で震災のことを思い出しますか
(1)ほぼ毎日 16.5%
(2)週1回程度 20.4%
(3)月1回程度 38.9%
(4)ほとんど思い出さない 12.0%
(5)思い出したくない 12.3%
〔8〕 被災地以外の人は震災のことを忘れてきていると思いますか
(1)忘れてきている 33.1%
(2)どちらとも言えない 32.8%
(3)忘れてはいない 27.2%
(4)分からない 6.9%
〔9〕 災害のための食料備蓄や防災用品の準備はしていますか
(1)している 63.3%
(2)していない 17.9%
(3)これから準備しようと思っている 9.3%
(4)震災当初はしていたがやめた 8.7%
(5)分からない 0.9%
〔10〕 災害が起きた場合の避難場所を決めていますか
(1)決めている 71.0%
(2)決めていない 21.2%
(3)これから決めようと思っている 6.6%
(4)分からない 1.2%
〔11〕 市町や地域の防災訓練に参加していますか
(1)毎年参加している 24.7%
(2)たまに参加している 31.0%
(3)震災当初はしていたがしなくなった 13.4%
(4)したことがない 28.9%
(5)分からない 2.1%
〔12〕 今後も被災地に必要な支援は何だと思いますか(複数回答)
(1)被災者の生活再建 21.2%
(2)被災企業の支援 14.0%
(3)防災施設のインフラ整備 21.8%
(4)コミュニティーの構築 24.7%
(5)心のケア 18.2%
(6)分からない 5.7%
〔13〕 能登半島地震で、震災の教訓はどの部分に生かされていると思いますか(複数回答)
(1)事前の防災、減災 9.1%
(2)災害発生時の避難 29.2%
(3)避難所運営 23.4%
(4)二次避難 8.8%
(5)インフラ復旧 9.4%
(6)仮設住宅の整備 20.1%
(7)ボランティアの受け入れ 15.3%
(8)その他 1.9%
〔14〕 能登半島地震で、震災の教訓はどの部分に生かされていないと思いますか(複数回答)
(1)事前の防災、減災 27.8%
(2)災害発生時の避難 14.8%
(3)避難所運営 19.8%
(4)二次避難 12.3%
(5)インフラ復旧 14.8%
(6)仮設住宅の整備 10.5%
(7)ボランティアの受け入れ 14.2%
(8)その他 3.7%
【調査の方法】
2月19~3月1日、三陸河北新報社の記者が石巻市、東松島市、女川町の公共施設や事業所などで面談形式や用紙の配布回収で調査。計337人から回答を得た。
回答者の被災状況(複数回答)は「自宅が被災した」が58.8%、「仕事や学業に影響があった」が32.6%、「家族・親族が犠牲になった」が31.8%、「津波を見た」が25.8%だった。
東北大災害科学国際研究所・佐藤翔輔准教授に聞く
調査結果の評価について、東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授に聞いた。(藤本久子)
<被災の経験、能登に届けて>
地域の復興がうまくいったかという問いに対し「思う」と回答した人が前年より6.5ポイント増加した。復興の評価は自分が納得できるかどうかという解釈の問題。13年が経過し、当時を振り返る形で「うまくいった」と思えるようになってきたとも考えられる。
能登半島地震に震災の教訓が生かされていると思うかの設問には、半数以上が肯定的に回答している。災害時の避難では、震災が避難訓練を重ねるきっかけになった。避難所運営では防寒対策の重要性が広まった一方、能登では土足で利用されていた場所もあり、評価が両極端だった。
教訓が生かされていない部分では「事前防災・減災」が多く挙がった。建物の倒壊が多かったことが要因だろう。震災では、宮城県は耐震化が元々進んでいたし、津波の被害が強調されて伝えられていた。
教訓を自分事として捉えてもらうことは難しい。津波の被害を知っていて避難はできても、その後の生活には生かし切れていない。被災者にいま一度経験を発信してもらい、他地域の人にも震災を振り返ってもらうことが必要だ。甚大な被害を経験したからこそ、能登の被災地に並走し、求められた事への助言や支援ができる。
(さとう・しょうすけ:1982年、新潟県生まれ。京都大大学院情報学研究科博士課程後期修了。日本学術振興会特別研究員(DC2、京都大防災研究所付)、東北大大学院工学研究科付属災害制御研究センター助教を経て、2017年11月から現職。専門は災害伝承学、災害情報学。)
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