東日本大震災きょう13年 展望、課題 石巻地方3市町長に聞く
東日本大震災は11日、発生から13年となる。石巻地方では関連死を含め約6000人が犠牲になった。失われた一つ一つの命を思い、各地で追悼の祈りがささげられる。
石巻市では昨年、国の復興財源を活用したハード整備が終わった。北上川河口部では、津波で壊滅した南浜地区が祈りの場に変わり、災害時の避難道になる橋も架かった。新たな街の基盤は形作られた。
文化や観光の拠点施設も石巻地方各地に整備された。新型コロナウイルス禍を越え、にぎわい創出の取り組みも本格化する。一方で、津波の跡地には更地が広がり、活用への模索が続く。
沿岸部に防潮堤や高盛り土道路が築かれてもなお、巨大津波のリスクはある。東松島市は新年度、津波避難タワーを整備する。犠牲者を生まない現実的な避難の在り方は、まだ見いだせていない。災害への備えに完全はない。
元日に発生した能登半島地震は甚大な被害になった。復興への長い道のりが待つ。震災からの歩みでわれわれが感じてきた希望や葛藤、後悔もきっと、能登の復興に生かせる。全国から受けた支援への感謝を今こそ形にしたい。
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石巻市の斎藤正美市長、東松島市の渥美巌市長、女川町の須田善明町長に、復興の残された課題や今後のまちづくりのビジョンを聞いた。
斎藤正美石巻市長
<災害時の情報発信に力>
-復興状況への所感は。
「ハード事業は完結したが、心の復興やコミュニティー再構築などは道半ばだ。市民一人一人が真の復興を実感できる社会を目指し、オール市民で取り組む」
-人口減少が課題だ。
「結婚への意識向上を図る。若い世代の婚姻に伴う経済負担の軽減が必要。民間の保育士宿舎借り上げ支援事業を創設するなど、安心して子どもを産み育てられる環境づくりを進める」
「稼ぐ力を創出するため積極的な企業誘致に取り組む。中心市街地にマンガモニュメントと一体化したベンチを設置して回遊性を高め、交流人口拡大を図る」
-市の防災施策は。
「新たに必要な避難関連施設の整備や防災サインを見直し、防災力向上に努める。防災行政無線の屋外子局や戸別受信機の適正配置など、災害時の情報発信力強化を目指す」
-震災遺構「門脇小」は市内の小中学校からの移動手段に課題があり、利用が低調だ。
「より多くの小中学生に震災遺構を見てもらいたいが、バス代がかかる。引き続き、震災遺構門脇小で実施しているバス代補助や市バスの活用などで関係団体や関係部署と連携し、利用を推進していく」
-水産業は苦境が続く。
「海水温上昇に影響されない陸上養殖の実用化に向けて関係団体と協議を進めたい。東京電力福島第1原発の処理水放出で風評被害が発生している。東電と国に対し、安定的に事業を継続できる支援を求める」
-能登半島地震では甚大な被害が出た。
「震災の最大被災地の市が復興を成し遂げられたのは全国からの多大な支援のおかげ。能登半島の復興に向け、今後も震災の経験を踏まえ、被災地のニーズに応じた支援に努める」
(聞き手は及川智子)
渥美巌東松島市長
<避難視野に設備を改善>
-震災から13年となった。
「今後の課題は津波の脅威を語り継ぐこと。人口約4万人の市で、死者・行方不明者計1133人というあまりに大きな犠牲をはらった。哀悼をささげ、次世代に伝える必要がある」
「各地で大災害が起き、震災は過去の物と見なされる向きもある。毎年開催する追悼式は『まだ終わっていない』と政府に発信する一助にもなる」
-元日に能登半島で地震が起きた。
「能登では一般住宅の倒壊が目立つ。市も2003年の宮城県連続地震で多くの住宅が全壊・半壊した。市内の耐震化率は今年1月末時点で約87%と高いが、今後も耐震工事への補助事業など耐震化を推進する」
-防災にどう取り組むか。
「市矢本運動公園内の津波避難タワーは新年度中の整備を目指す。道路の拡幅や垂直避難を視野に入れた学校改築など、普段から活用する公共設備の改善を通じて防災を進める」
-東北電力女川原発が9月に再稼働を予定する。
「市のリスクは立地2市町とそう変わらない。県の24年度一般会計当初予算案では、市を含む原発から5~30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)5市町への核燃料税交付金が初めて計上された。全国のUPZ自治体を参考にし、今後も県に財源支援を要求する」
-人口減少への対策は。
「グリーンタウンやもと工業団地に約10年ぶりの新規立地があった。年内には部品メーカーの新工場もできる。企業誘致による雇用創出が人口減少に歯止めをかけると期待する」
「市は環境省の脱炭素先行地域に選ばれた。奥松島など自然の魅力を生かした観光振興にも力を入れ、インバウンド(訪日客)の受け入れを図る」
(聞き手は西舘国絵)
須田善明女川町長
<町民会議、人の動き創出>
-震災から13年がたつ。
「昨年5月に新型コロナウイルスが5類移行となり、多くのイベントが再開した。町に活気が生まれ、日常の姿も戻りつつある。復興の次の段階に入っていた中でのコロナ禍だったので、これからはより本格的なリスタートが切れる」
-昨年1月には女川町民会議が始動し、住民がまちづくりに参画している。
「コスプレイベントやゲーム大会といった企画が生まれた。参加人数は多くなくても、確実に人の動きがある。自分たちで考えて成功体験を持つことが大事。町民の受け皿として機能していると言える」
-町の離島・出島と本土をつなぐ出島架橋が12月に開通する。
「長年にわたる町民の宿願が実を結び、先人が紡いできたものが形になる。島の景観や文化の維持をはじめ、島らしい新しい取り組みを地域おこし協力隊や島民と考え、魅力や価値を多くの人に体感してもらえるようにしていく」
-海水温の上昇によるホタテやホヤの死滅、サンマの不漁など水産業への影響が深刻だ。
「県漁協などと連携して今の海に合った新たな養殖種を取り入れるなど、これまでにない挑戦が必要。関係団体と進めるのはもちろん、担い手の確保といった課題にも向き合っていく」
-東北電力女川原発2号機は9月の再稼働を予定する。先日は敷地内への使用済み核燃料貯蔵施設の建設について東北電から事前協議の申し入れを受けた。
「安全対策工事をしっかり進めるのは大前提。防災面ではインフラの強化・改善が必要で、引き続き国、県に求めていく。申し入れについては、町は原発立地地域であり最終処分場ではない。早期の敷地外搬出を望んでいることを伝えたい」
(聞き手は大谷佳祐)
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