災害とジェンダーの関係、日常の不平等 石巻出身の一橋大院生内田さん、研究
東日本大震災を基軸に、災害とジェンダーの関係を研究する石巻市出身の若者がいる。一橋大大学院社会学研究科の内田賢(すぐる)さん(24)は、災害時に苦境に追いやられる女性や高齢者、性的少数者らの経験を見つめ、そこから日常に潜む不平等を解き明かそうとしている。(西舘国絵)
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都留文科大(山梨県)在学時、周囲の学生から震災の経験を頻繁に聞かれた。震災当時は石巻市向陽小5年。津波は見ておらず、報道で知った。被災地出身でありながら震災を知らない自分に気付いた。「社会は震災をどう捉えたのか」。災害研究への関心が芽吹いた。
ジェンダーに視点を向けた一因には、震災の記憶のフラッシュバックに苦しんだ祖母(79)の姿があった。両親は共働きで、夕食の支度は祖母の仕事だった。震災後、祖母は突然泣き出すようになり、炊事もままならなくなった。
サイレンの幻聴におびえる祖母を、内田さんと家族は「津波も経験していないのに」となじった。祖母自身も苦しい理由が分からず、同じ言葉で自らを責めた。
「今なら心的外傷後ストレス障害(PTSD)だったと分かるが、当時は理解できなかった」。時がたつにつれ、後ろめたさが募った。
祖母の苦しみの要因はどこにあったのか。大学でジェンダー関連の講義を受けるうち「高齢女性という立場がさらに祖母を苦しめたのでは」と思い至った。「家事は女性の仕事」という凝り固まった社会規範や、孫の面倒を見るのは当然という意識がなければ、祖母はあれほど追い詰められなかったのではないか。祖母に向き合うため、社会学を学び始めた。
「『みんな同じ被災者』という画一的な考え方が、属性や立場によって異なる苦境を見えなくする」
震災犠牲者には津波から逃げ遅れたとみられる高齢者が多かった。阪神大震災の犠牲者約6400人のうち、女性は男性より約1000人多い。耐震が不十分な古い住宅に住んでいた高齢女性が多かったことが一因とされる。
貧困や健常者のために設計された社会デザインなど、平時から社会が抱える問題が災害時、死者数という形で色濃く表れる。
「防災は地域住民みんなのためにある。だが、その『みんな』に女性や障害者らが本当に含まれているかを問う必要がある」と、多様な意見をすくい上げる社会の実現を訴える。
研究では仙台市の女性団体や石巻市のNPO法人やっぺすの活動に関わり、主体的に災害に向き合う女性の取り組みを研究した。成果をまとめた論考は、岩波書店の月刊誌「世界」の4月号に掲載された。災害とジェンダーの分野は社会の関心が高まりつつある。
3月に一橋大大学院の修士課程を修了し、今月から博士課程に進んだ。いずれは大学教員になり「関心のない世代に震災を伝える」のが目標だ。
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