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未来に届ける 岩手で「震災痕跡史料館」開設準備進む 旧大川中の被災ピアノも展示

旧気仙銀行盛支店に設置された被災ピアノ。残る痕跡から当時ピアノが設置されていた立地や周辺地理を推測できる(c)PR45
大船渡の拠点として利用する旧気仙銀行盛支店(c)PR45

 東日本大震災の津波で被災した公共物の破片などを展示する「2拠点型震災痕跡史料館」を、岩手県宮古市と大船渡市に開設するプロジェクトが進んでいる。大船渡には、石巻市の旧大川中から運び出された被災ピアノを収蔵する。構想を進める新藤典子さん(56)=大船渡市=は「離散の危機から守ろうと集めてきた被災物を防災に役立てたい」と話す。(漢人薫平)

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 新藤さんは三陸沿岸で災害復旧記録や津波の痕跡が残る公共物を記録、保存する「PR45」を設立し、活動している。復旧工事の過程で廃棄物として処理される各地の被災物を「震災痕跡資料群」と捉え、防災への活用を目指して各自治体などと協議しながら保管する。石巻市内では旧大川中のほか、門脇小や旧雄勝中で被災ピアノの搬出、保存に取り組んだ。

 史料館として整備する大船渡では、大正時代に建築された「旧気仙銀行盛支店」の1棟を展示施設として改修する。旧大川中を含む三陸沿岸の小中学校にあった被災ピアノ6台に加え、津波で流失した国道のアスファルト片、防潮堤の破片など約20点を手に取って見られるようにする。

 新藤さんによると、旧大川中のグランドピアノは2011年に学校体育館の壇上で、鍵盤の高さまで泥が付いた状態で発見された。13年、地元企業や工事業者と協力して被災した校舎から搬出した。22年まで市内外で仮保管し、現在は大船渡拠点に置いている。

 分解して泥などの汚れを落とすと資料価値となる「津波で変調した音」が失われることから、そのままの状態で展示する。ピアノは製造番号や被災状況から、設置場所や周辺の地理が特定できる。新藤さんは「旧大川中のピアノからは、川を遡上(そじょう)する津波に学校が襲われたことが分かる。実際に鍵盤に触って津波の怖さを考えてほしい」と願う。

 宮古では1934年に着工され、当時の防災上優れた街区計画の一部の防潮堤設備「田老1号陸閘扉体」と、周辺の防潮堤や旧街区の拠点化を構想をする。

 活動で発見、保管した宮古から石巻にかけての4カ所に点在し、現地から動かせない被災物も史料群として捉え、見学、周遊してもらう考え。石巻地方では「旧石巻ハリストス正教会教会堂」の壁4枚や左官が施した意匠を旧湊二小校舎内で保管している。

 新藤さんは「実際に現地を訪れて、津波の破壊力を示す痕跡を見てほしい」と語った。

 各地の史料への防災ツーリズム拠点として旧気仙銀行盛支店を整備することを視野に、工事費用1000万円を募るクラウドファンディングに挑戦している。専用サイト「READY FOR(レディーフォー)」で7月25日まで受け付ける。

築100年の銀行で、2拠点型震災痕跡史料館・大船渡拠点をつくる(PR45 新藤典子) - クラウドファンディング READYFOR

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