滔々と 私の大河 > 須能邦雄さん 第1部・震災編(6) 競りの声、4ヵ月ぶりに響く
石巻の水産業界を再生させるべく2011年3月末から水産復興会議を続けた。7月に入り、石巻の丸信水産(問屋)から水揚げの再開時期の相談を受けた。
既に気仙沼市では水揚げを再開していた。個人的にも業界関係者や市民に元気や勇気を与えるため、一日でも早く魚の姿を見せることが必要だと考えていた。岸壁をきれいにして、水と氷の手配を進めるなど動きが加速していった。
水は日本財団(東京)が北上川の水を飲料水に変える機械を石巻に持ってきていた。当初は水道が使えるようになったら持ち帰る計画だったそうだが、知り合いだった田代島出身の理事長にお願いして、石巻西港に設置してもらうことにした。
氷は元外交官で外交評論家の岡本行夫氏が中心となり、東北沿岸の水産業を支援するために設立した「希望の烽火(のろし)基金」が力を貸してくれた。
岡本氏は幅広い人脈で大手企業などと協力し、冷凍コンテナやフォークリフト、トラックなどを寄贈してくれた。その冷凍コンテナで氷を保管する体制ができた。
水揚げ再開に向けては保健所とのやりとりもあった。7月12日に行うことを伝えるも、初めは許可を出せないと言われた。内心、強行して実施し、責任を問われて捕まることになってもいいと思っていた。最終的には海水や真水に関する衛生面のアドバイスを受けて行うことになった。
11日の水産復興会議で翌日に再開させることを正式に決定。12日朝、競りの声が4カ月ぶりに響いた。現地には貯氷用の冷凍コンテナ、大規模イベントなどで使用する長さ80メートルの特大テントを設置。岸壁方向以外の3方向をテントで覆い、砂ぼこりなどの侵入を抑えた。
魚市場西側にある西港には石巻市のイカ釣り船「第15愛宕丸」、東松島市の定置網船「祐神丸」、日本海でメジマグロ(マグロの幼魚)を漁獲した八戸市の巻き網船「第60惣宝丸」など約10隻が入港し、計31トンを水揚げしてくれた。
競りの前にあいさつの時間をもらった。「一歩ずつ復旧させ、秋の本格受け入れに向けて一致団結していきたい」と、水産都市・石巻の復興に向けて誓いを新たにした。
仮設テントの下でスルメイカ、カレイ類、ヒラメ、タコ、スズキ、コノシロなどが競りに掛けられた。マグロは東京・築地などへ出荷された。競り人の「はいなんぼ」という声が響き渡り、仲買業者の多くは「なんぼでも高くていい」と言ってくれていた。
スルメイカは1箱が最高値で4500円と、通常の2倍以上の値が付いた。他の魚も軒並み通常の3~5割高。ご祝儀相場で再スタートが祝われた。
全ての人が魚の顔を見て笑顔になった。例えるなら恋人に会ったときのような表情、昔の友達にあったような懐かしさが表に出る感覚だった。
私自身もマスコミからの問いに「量が少なくて小さな一歩だったけれども、復興に向けては大きな一歩になった」とコメントしたことを覚えている。
13日以降もイカ釣り船などが入港した。次は大型船の入港を可能にするため、震災前まで水揚げに使っていた漁港桟橋のかさ上げなどをしていくことになる。8月中旬までに工事を終え、9月に漁が再開する主力の底引き網船の水揚げを待つことになっていった。
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