あす世界禁煙デー たばこを断ち、命守ろう 健康影響知って
31日は世界保健機関(WHO)が定めた世界禁煙デー。日本の喫煙率は年々低下し、2022年国民生活基礎調査によると男性で25.4%、女性が7.7%になっている。東北大大学院医学系研究科の黒澤一教授(内科病態学講座、産業医学分野)と、石巻赤十字病院(石巻市蛇田)の矢内勝院長補佐(呼吸器内科)が喫煙を取り巻く現状、たばこの害などについて対談した。
◇ 対 談
<病気誘発 寿命10年縮める>
黒澤氏「煙の有害な成分は肺に沈着して害を及ぼします。肺胞から吸収され、血管や肝臓、膀胱(ぼうこう)、腎臓を傷め、全身がやられる。いろいろな病気を起こし、その人の寿命を10年縮めると言われています。途中でやめても多少寿命は延びます。やめる時期によって変わる。何歳でやめても、やめる意味がありますね」
矢内氏「そう。早ければ早い方がいい」
黒澤氏「喫煙は自分の寿命を短くするだけではなく、周りの人に迷惑をかける。夫が喫煙している場合、妻の肺がんのリスクはすごく高くなります。2020年の改正健康増進法全面施行で、受動喫煙に対する目が厳しくなっている」
矢内氏「子どもへの影響はどうでしょうか」
黒澤氏「小さな子どもへの影響は明らか。お母さんが妊娠中に受動喫煙したとき、胎児への影響もある。低体重児になったり、突然死や奇形が多くなったり、知能指数が低くなったりします。子どもや妊婦は感受性が高い」
矢内氏「ぜんそく、アレルギー性鼻炎、風邪、虫歯などになりやすい」
黒澤氏「いろいろな疾患と同時に進行するのが慢性閉塞性肺疾患(COPD)。基本的にたばこを吸わないとならない病気で、受動喫煙でもなります。痛くないが、最終的に呼吸が苦しくなります。たばこを吸う70代の4、5人に1人ぐらい。例えば肺がんなどは1000人に何人とかそういう単位だから、ものすごい確率なんです」
矢内氏「COPDは徐々に起こるので気付かない。息切れがするが、年のせいだろうと。診察を受けても医者は『心臓が悪いからだ』と。ほとんど、95%が見逃されています」
黒澤氏「ニコチン依存症の問題は深刻です。数本連続して吸えば中毒になってしまう。中毒を起こす力が強い」
矢内氏「若いうちに吸えば吸うほど、害も大きいし、たまってしまう。依存性も強くなります」
黒澤氏「依存から抜けるのは大変。頭が働かなくなる。脳波が遅くなったりするんです。やめれば1週間ぐらいで戻ります。ただ、その1週間がつらい」
黒澤氏「ニコチン中毒の人は『たばこが必要なんだ』みたいな考えになってしまってやめられなくなってしまう」
矢内氏「『ストレスが多いから今はやめられない。仕事をやめたら、たばこもやめる』と言い張る人がいるが、ストレスをたばこで解消できているというのは妄想。喫煙者はたばこを吸った時だけ、ドーパミンという幸せ物質が出てストレスが解消されたと勘違いする」
矢内氏「たばこをやめるとストレスは減るし、食べ物の香りや味が分かるようになって、すごくうれしいという。やめた人が、秋の紅葉がこんなに美しいものだと思わなかったと涙するんです。感受性が戻ったということ。感動したときにちゃんとドーパミンが出るようになったんです」
黒澤氏「ニコチン中毒になると、おいしい、きれい、うれしいとか幸せな感覚が低くなり、鈍感になるという仮説があります。たばこをやめると人柄まで変わるんです」
矢内氏「やめた後、たばこを再び始めるきっかけは友達に勧められるというのと、ストレス。それでつい1本吸ってしまったという。気を付けた方がいい」
黒澤氏「吸っている人は、たばこなしの生活が想像できないという。周りの人が背中を押してあげるとか、たばこを吸わない環境をつくることが大事だと思います」
<石巻の喫煙率、全国の1.5倍>
矢内氏「世の中の意識は変わりつつありますね。平成の初めごろに男性で6割吸っていたのが今は3割弱。女性は十数%だったのが10%を切っています。世界COPDデーがあり、石巻でも2006年から実施しています。問診と肺機能の検査をするんです。06年の調査で700人弱のうち40歳以上の13・5%が閉塞性障害でうまく息を吐き出せませんでした。全国では01年の調査で8・6%。石巻は全国の1・5倍でした。喫煙の有無や喫煙歴なども見ました。吸っている割合も非常に高かった。びっくりしたのがたばこを吸う若い女性の多さです。40代が39%、30代が33%、20代が32%。同じ年の市町村のたばこ税を調べたら、石巻は1人当たり日本平均の1・5倍。ものすごくたばこを吸う土地柄なんです」
黒澤氏「全体的にはかなり減ってきて、吸える場所も少なくなってきました。これから減っていくとは思います。政府の健康づくり運動プラン『健康日本21(第3次)』(2024~35年度)では目標が男女合わせて12%。あと10年ぐらいかけて男性は18%ぐらいにする目標になっています。女性は4、5%を目標。石巻でそこまでいくかどうか」
矢内氏「石巻はどうでしょうね」
<加熱式もニコチン依存に>
矢内氏「加熱式たばこは、喫煙のエントランス(入り口)になっていますね。軽い気持ちで吸うと、やめられなくなってしまう」
黒澤氏「新型たばこは、たばこじゃないと思っている人がいます。日本で売っている新型たばこは加熱式といい、タバコの葉を熱し、蒸発したニコチンを吸う。依存症になります」
黒澤氏「タバコの葉に由来する毒物などいろいろな成分を吸わせます。だからいろいろな病気が出るだろうと言われています。(まだ症例が少ないだけで)長い目で見て、多分これから病気が出てくる」
矢内氏「新型たばこで『ハームリダクション』(害の低減)という言葉が使われています。煙が見えないからいいだろう、害は減らせるというが、安全かどうか分かりません」
黒澤氏「安全な物質も熱で変わってしまう」
矢内氏「例えば廃棄物を処理すると出るダイオキシン。低温だとダイオキシンが非常に出やすい。『体に良くないが、紙巻きたばこよりは安全だ』と言うが、煙が見えないだけ。見えないだけで粒子は出ています。吐き出す息の中に含まれる粒子が2、3メートル先に届いています。煙が見えないだけで、受動喫煙がないというのはうそです」
黒澤氏「米国の新型たばこは、麻薬の入り口となる『ゲートドラッグ』として認識されています。そこからヘロインに行ったり、合成麻薬に行ったりします」
<子への教育が親の禁煙促す>
矢内氏「石巻赤十字病院は2004年から、子どもにたばこを吸わせないという防煙教育を始め、毎年小中学校、高校10~20校ぐらいで授業をやってきました。当時話を聞くと『運動会の会場で親がたばこを吸う』という状況でした。地域性なのでしょうか」
矢内氏「東日本大震災前、東松島市大曲小で毎年防煙教育をしていました。1、2年生、3、4年生、5、6年生に1回ずつ授業をし、毎年アンケートをしました。なんと1年で50人ぐらいの親がたばこをやめているんです。授業で『たばこを吸うと親が早死にする』と聞いた子どもが『やめて』と言うわけです。これはいいと思いました。環境は重要です。子どもへの教育はすごい。授業後は将来たばこを吸わないと決心する子どもが増えて、子どもの説得で禁煙する親も増えました」
矢内氏「禁煙外来は時間もお金もかかる。何よりも一番良いのは、吸い始めないことです。たばこのない社会をつくることが、根本的な対策になる」
黒澤氏「行政の役割は環境づくりの面でも重要です。例えば条例を作っていろいろやる。東京は改正健康増進法より厳しく、店舗でたばこを吸えないよう独自に規制しました。条例を作れば、みんなの意識を高めることができると思います」
矢内氏「かつて石巻は県内でも公共施設での禁煙が非常に遅れていました。行政の関わる範囲でできることをしてほしい。米国の町では半年間、公共の場を禁煙にしたところ、心筋梗塞での救急搬送がすごく減ったといいます。行政が取り組めば、たばこによる病気を減らせます。たばこ税は市町村の財源でもあります。たばこ税率は今61%。そのうち半分ぐらいが市町に入ります。市町村に入る仕組みになっているから及び腰にも映ります」
黒澤氏「たばこ税は国全体で2兆円前後をキープしています。なかなか国は本格的に取り組もうとしません。近視眼的に見ると税収はあるが、長い目で見ると国民の病気による損失は数兆円の試算になり、損失の方がはるかに大きいのです」
黒澤一(くろさわ・はじめ)氏:1995年、東北大大学院医学系研究科博士課程修了。東北大大学院医学系研究科内部障害学分野講師、東北大保健管理センター助教授(東北大産業医)などを経て、2010年から現職。東北大環境・安全推進センター教授、東北大統括産業医。秋田県羽後町出身。62歳。
矢内勝(やない・まさる)氏:1980年、東北大医学部卒。厚生連平鹿総合病院で外科と内科を研修後、東北大医学部第一内科、老年・呼吸器内科、マギール大学(カナダ)で呼吸器病学の研究と臨床を行う。2001年石巻赤十字病院呼吸器内科部長、14年副院長、20年から現職。群馬県出身。69歳。
◇ ライトアップ「イエローグリーンキャンペーン」
5月31日の世界禁煙デーに合わせて仙台市医師会などは「イエローグリーンキャンペーン」を展開します。イエローグリーンは「受動喫煙をしたくない、させたくない」という気持ちを表す色。日本禁煙週間(5月31日~6月6日)、仙台市医師会や仙台放送電波塔などをライトアップします。
◇ 石巻地方など主な禁煙外来実施医療機関(順不同)
しらゆりクリニック 0225(22)3717
石巻赤十字病院 0225(21)7220
ししど内科クリニック 0225(83)8830
中浦内科医院 0225(21)7551
中川内科外科医院 0225(72)2123
佐藤医院 0225(76)3420
佐藤内科医院 0225(22)3020
駅前北きし内科クリニック 0225(95)3123
簡野医院 0225(74)2244
伊藤内科クリニック 0225(96)6372
石垣クリニック内科・循環器科 0225(83)7070
やもと内科クリニック 0225(98)3260
石巻市立病院 0225(25)5555
女川町地域医療センター 0225(53)5511
南三陸病院 0226(46)3646
米谷医院 0229(44)1133
ささはら総合診療科 0220(21)5660
千葉医院 0220(22)3725
登米診療所 0220(23)8422
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