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「命助かる方へ導いて」 高台避難、絵本で伝える 石巻・日和幼稚園遺族と学生有志

完成した絵本「2人の天使にあったボク」
大崎市古川の保育園で、制作した絵本の読み聞かせをする佐藤美香さん=27日

 東日本大震災の津波で幼稚園の送迎バスが被災し、まな娘を失った石巻の母親2人と仙台白百合女子大(仙台市)の学生有志らが連携し、高台避難の重要性を訴える絵本を完成させた。「子どもたちは命が助かる方に導いてほしかったはず」。災害の恐ろしさや命の大切さを次世代の子どもたちに感じてもらおうと、亡くなった2人の願いを想像して描き出した。

 タイトルは「2人の天使にあったボク」(リーブル出版)。海沿いに住む主人公の男児が一人で大地震に遭遇すると、「あいり」ちゃんと「はるね」ちゃんという2人の女の子が現れる。男児は風に飛ばされた帽子を追いかけたり、母がいるはずの家に帰ろうとしたりする。2人は男児の手や服を強く引っ張り、必死に高台まで導く。

 震災時、高台の幼稚園から低地へ出発した私立日和幼稚園の送迎バスに乗って命を落とした佐藤愛梨ちゃんと西城春音ちゃん=ともに当時(6)=がモデルになった。無事に避難して両親と再会できた男児は、2人が天国から訪れた愛梨ちゃんと春音ちゃんと知って感謝する。

 制作は、愛梨ちゃんの母美香さん(49)、春音ちゃんの母江津子さん(49)らによる「日和幼稚園遺族有志の会」が昨年4月、仙台白百合女子大に依頼した。幼児教育などを学ぶ3、4年の学生6人が美香さんの思い描くイメージに合わせてストーリーや挿絵などを考案。7月には市内の事故現場や慰霊碑を訪れ、美香さんと江津子さんから当時の状況を聞き取った。ことし3月に絵本が完成した。

 挿絵は当時4年の佐藤美宇さんと青山朱璃さんが担当した。男児の登場部分は美宇さんのかわいらしい絵柄で物語が進む。震災当時を回想する場面は、青山さんが写実的なタッチで街を襲う津波、バス内で互いに励ましあう園児を克明に描いた。

 絵本は縦21.5センチ、横26.5センチ、32ページ。500部制作。教訓を子どもたちへ届けようと、350部を県内外の自治体を通すなどして小学校や幼稚園へ寄贈。残部はほぼ売り切れた。美香さんによる絵本の読み聞かせも展開する。

 今月9日には石巻市教委に市立幼稚園・小学校34施設分の絵本を託した。美香さんは「少しでも多くの子どもの手に取ってもらいたい。避難をすればお母さんやお父さんに会えるんだよ、ということを知ってほしい」と話した。

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