ブルーインパルス搭乗記(22) 整備士の力〔3〕 入間航空祭に同行 視界、スモッグで悪化
【元航空機整備士・添田潤】
整備士は全国各地で航空祭を行う際、松島基地からブルーインパルス全機を離陸させた後、輸送機で現地に向かいます。当然ブルーインパルスの方が速いので輸送機よりも先に現地に到着します。ブルーインパルス到着から輸送機到着までの間の整備作業をするために、整備士が何名かブルーインパルスの後席に搭乗し現地での整備作業に当たります。
埼玉県の入間基地に移動する際の景色について紹介します。松島基地を離陸する方向はだいたい野蒜に向かって離陸します。基地の外柵を越えたあたりで左に旋回し、洋上に出て野蒜海岸や嵯峨溪を右に見ながら、上昇を継続します。松島湾の島々が見渡せる頃になると仙台空港が右前方に、さらにはるか右前方に福島県松川浦が見えてきます。
■東京の周波数に
このころに1番機から松島管制塔の周波数から東京コントロールの周波数に変える指示が来ます。1番機は各機が東京コントロールの周波数に変更したころを見計らって「ブルーインパルスチェックイン」と送信すると「2、3、4、5、6」と各機順番に答えます。全機が東京コントロールの周波数に変更したことを確認後、1番機は東京コントロールに今後の指示を仰ぎます。
東京コントロールの管制官は外国人も在籍しています。松島基地の管制官は日本人なので日本人が聞き取りやすい英語で話してくれますが、運悪く外国人の管制官に当たると何を言っているのか全く分かりません。操縦者はそれでもちゃんと聞き取り会話が成り立っています。
もっと運が悪いときは外国人の声の小さな女性の管制官。無線機のボリュームを最大にしても聞き取れず、たまに入るノイズで耳が痛くなってしまいます。これには1番機操縦者も「プリーズ セイ アゲイン」と言っていました。管制用語で「プリーズ」はめったに使いません。
■後席に乗る特権
福島県沖の航空路の基準点を通過後、入間基地に向けて南西に針路を変えます。陸地に入ると栃木、群馬、茨城、埼玉の4県にまたがる渡良瀬遊水地が見えてきます。渡良瀬遊水地は見る角度によってきれいなハートに見える時があります。渡良瀬遊水地を凝視できるのは後席に乗っている整備士の特権です。
■たくさんの滑走路
渡良瀬遊水地を過ぎたあたりで、東京コントロールの周波数から横田コントロールの周波数に変更します。操縦席の水平位置指示器(羅針盤)に示される入間基地までの距離は近くなってきますが、上空から見ると入間基地、横田基地、陸上自衛隊立川駐屯地の飛行場跡、調布飛行場、ホンダエアポートなど滑走路がたくさんあり、ゴルフ場も隣接しているため、どこに降りればいいのか分かりません。
さらに関東圏に入ると、スモッグにより一気に視界が悪くなります。真上や真下の見通しは良いのに、前方や左右の見通しが極端に悪くなるのが入間基地の特徴です。操縦者いわく入間基地で見通しが良いときはないそうです。
松島基地航空祭の観客は7~8万人ですが、入間基地航空祭の観客は20万人を超えます。見通しが悪く同じような滑走路が複数ある場所で、多くの観客を前にして演技課目を行うのは神がかり的技術が必要です。
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