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ブルーインパルス搭乗記(21) 整備士の力〔2〕 徹底的な安全対策 機体も組織も常に進化

整備士の指揮を執る添田さん(左)=栃木県在住の坪山美樹さん撮影

【元航空機整備士・添田潤】

 ブルーインパルスに使用しているT4型ジェット練習機は軽量化のためあらゆる無駄をそぎ落としています。T4が設計された昭和後期には、ガラス繊維や炭素繊維が一般には出回っておらず、特殊な材料でした。ハニカム(ハチの巣状)の芯をガラス繊維の板で挟み高温高圧で処理した繊維強化プラスチック(FRP)を多用した画期的なものでした。

 FRPは面として何トンという負荷に耐えられますが、点での負荷にものすごく弱く、整備作業中にドライバーを落としただけで穴が開いたりするので神経を使います。車輪のホイールは自動車レースでも使われているマグネシウム合金を使用し、軽量化を図っています。

■操縦席、特に注意

 操縦席は配管や配線の上に配置され操縦系統のケーブルやロッドなどがむき出しで隔壁がありません。操縦席での整備作業で鉛筆などを落としてしまうと簡単には拾えません。そのままにしておくと、操縦系統のケーブルなどに引っ掛かり、最悪操縦不能になる可能性があります。以前女性の見学者が操縦席内にピアスを落としてしまった事例がありました。小さな物ですが電極に接触すれば火災になる可能性もあり、訓練を中止して探したことがありました。

 このような場合、座席を取り外して探すわけですが、座席には飛行中緊急時に座席ごと射出するためのロケットモーターや火薬などがたくさん付いています。手順を一つ間違えるとその場で作動し、過去には整備士が死亡する最悪のケースもありました。磁石を使えばくっついてくるだろうと思うかもしれませんが、航空機の整備で磁石は厳禁です。操縦者と整備士にとって、操縦席は凛(りん)として神聖な場所です。

■低速域の鳥、脅威

 通常航空機は、低高度を飛行するのは離陸と着陸に限られ、低高度を高速で飛行することは想定されていません。低速域であっても脅威となるのが鳥です。低高度を450ノットを超える高速で飛行するブルーインパルスにとってはなおさらのことです。

 飛行中に主翼前縁に鳥が衝突して主翼に穴が開き、燃料タンクにまで達したことがあります。主翼前縁には主翼の補助翼を動かすケーブルが通っており、最悪操縦不能に陥る可能性もあります。操縦席のフロントガラスに鳥が衝突し、フロントガラスが割れて操縦席内に飛び込み、操縦者を直撃した事例もあります。

■主翼前縁は強化

 ブルーインパルスの機体はこのような場合でも安全に飛行が継続できるように主翼前縁は強化され、フロントガラスは一般的なT4型ジェット練習機の約3倍の厚さに強化されています。

 重大な事故につながりかねない故障や偶発的事例に対し、常に対策を講じ、安全性を高めています。航空機だけでなく操縦者や整備士もインシデント発生のたびに手順が改善されます。「今度は気をつけましょうね」という反省ではなく、再発しないための対策が徹底的に取られます。航空機も組織もいまだに進化し続けています。

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