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関心高まる「ツナミリアル」 震災遺構門脇小・防災学習プログラム、短時間での効果実証

東北大大学院の若木さん、論文に

地域安全学会総会で村尾修会長(右)から賞状を受け取る若木さん=5月、新潟県小千谷市

 石巻市の東日本大震災遺構門脇小が提供する防災学習プログラム「ツナミリアル」を研究テーマに、一般社団法人地域安全学会の論文集に発表した大学院生が、論文奨励賞を受賞した。ツナミリアル参加者の記憶量や没入感を実験で測定し、短時間で行う震災学習の効果を実証した論文により、被災地での地道な取り組みに改めて関心が高まっている。

 受賞したのは論文の筆頭著者の東北大大学院工学研究科修士2年若木望さん(25)。5月、地域安全学会から賞状が贈られた。

 ツナミリアルは東北大災害科学国際研究所と、門脇小を運営する一般社団法人が2022年に共同開発した。参加者は震災時に発生する危険や判断を想像した上で、語り部から当時の状況を聞き、災害への備えを考える。1回当たり30分と通常の語り部講話より短く、限られた時間の中でも活用できるように設計されている。

 研究では22年12月に実験を実施。短縮版と通常版のツナミリアルと語り部講話、計4パターンに東北大生が参加した結果を比較した。プログラム終了後、覚えている話の内容や没入度を調べる質問紙に回答してもらい、記憶量や時間短縮の影響、リアリティーを実感しているかを分析した。

 その結果、参加者の想像と語り部の実体験に相違点があり、災害のリアリティーを実感していると結論づけた。全体の記憶量は話を聞く時間が長い方が約1.3倍高いことが分かった。時間を短縮した場合は没入感がやや低下する一方、語り部に事前調査した「特に伝えたい内容」は記憶してもらいやすいことも明らかになったとした。

 若木さんは「短縮の影響で伝達できない内容も多く、通常の語り部を聞いてもらうのが最善」とした上で「修学旅行生の研修など、参加時間が限られる場合にツナミリアルが有用だと分かった」と説明する。

 ツナミリアルの開発に携わり、若木さんの指導教員を務める東北大災害研の佐藤翔輔准教授は「伝承の手法に新しい選択肢を増やすことによる効果を、学術研究を用いて導き出したことが評価できる」と話した。

 若木さんは東北大生だった際の研究成果を、査読論文として地域安全学会の論文集に発表した。昨年11月の学会で研究内容をプレゼンテーションし、今年5月24日にあった同学会総会で論文奨励賞に選ばれた。

「ツナミリアル」、被災状況を疑似体験

 東日本大震災の被災状況を疑似体験する防災学習プログラム「ツナミリアル」無料体験会が16日、石巻市震災遺構門脇小で開かれた。参加者は講師の被災体験を聞き、備えの重要性について考えを深めた。

 同施設のガイドで防災士の菅原るり子さん(66)が講師を務め、来館者約10人が参加した。震災当時、石巻市門脇二番谷地の主婦だった菅原さんは「海岸から約2キロにある自宅で地震に襲われた。隣には高齢の義父が住んでいた」などと自作の紙芝居を使って説明した。

 地震発生直後、義父とともに近隣の中学校に避難。逃れて来た人が押し寄せた学校には体を休める場所や食料が不足しており、到達した津波が引いた後に自宅に戻った。後に友人や親戚と共同で在宅避難生活を送り、暖を取ったり煮炊きしたりできる石油ストーブが役に立った経験などを紹介した。

 菅原さんは「自宅避難の場合は食料品や日用品などは7日分を目安にローリングストックをして、避難所などに行く場合のために非常用持ち出し袋を用意してほしい」と備えの大切さを訴えた。

 参加者は菅原さんと同様に主婦として震度7の地震に遭遇した場合を想像し、どんな危険や判断を迫られるかなどを考えた。話を聞いてすぐに取り組むべき対策を顧みて、用紙に記入して発表した。

 友人と参加した仙台市の大学生中鉢仁子(にこ)さん(21)は「津波を見た経験はないが講師の話はとてもリアルに感じた。自分は家具の転倒対策ができていないと気付けた」と話した。

ツナミリアル参加者に、災害への備えについて語る菅原さん
ツナミリアル無料体験会スケジュール | 石巻市震災遺構

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