金華山のシカ、写真集に 石巻の三上さん撮影 神社で写真発見、半世紀前の風景再び
石巻市の金華山にすむシカを約20年カメラで追った三上義弘さん(86)=石巻市南中里=の作品が、写真集「霊島 金華山の鹿たち」として出版された。東日本大震災の津波でネガの多くは流失したが、崇敬者総代を務めた黄金山神社に奉納した一部が見つかり、復興ボランティアらが制作を企画。40~60年前の金華山の自然と共に、シカの暮らしやサルとの交流がモノクロで切り取られている。
三上さんは幼い頃に父に連れられて金華山を訪れ、子ども心にシカを大きく感じた。シカたちは戦後に進駐軍が狩りをしたため神社周辺に寄り付かなくなったが、関係者が呼び寄せて再び姿を見せるようになった。同じ頃に三上さんが金華山でシカの親子に出合い、持っていたカメラで撮ったことがその後の撮影のきっかけになった。
■暗室自作し現像
写真集は三上さんが立派な角を持ち「アイドル」と呼んでいるシカが表紙を飾る。シカ同士の縄張り争いや遊び、シカとサルのケンカなど、生き生きとした動物たちの姿が記録されている。角に焦点を当てた一枚は、暗い場所を背景に逆光で産毛を際立たせた。全力疾走の瞬間は流し撮りで捉え、シカの脚の間からノーファインダーで撮った際は何度も角でつつかれたという。
「おもしろくて仕方なかった」というシカとサルの暮らしに引き込まれ、金物店の仕事の傍ら、休みのたびに金華山へ通った。撮影した写真を早く見たくて、暗室を作り自分でネガの現像や紙焼きをした。初めは望遠レンズで追いかけていたが、動物との距離が縮まるにつれて近くで広角レンズを構えることが増えた。
■動物に教わった
「撮り方はシカとサルに教わったようなもの」という三上さんだが、東京で金物屋の見習いをした際は、フランスのアンリ・カルティエ・ブレッソンや酒田市出身の土門拳ら写真家の作品展をよく見に行った。著名な動物写真家の作品からも構図を研究したという。
1964年から85年ごろまで撮りためた金華山での写真は5万枚以上になったが、同市中央の実家にあったネガは津波で流失。自宅も被災したが「世話になった」神社のため73歳から80歳までボランティアと一緒に復旧作業を続けた。
なくなったと思われたネガは昨春、神社に保管されていた一部が紙焼き写真と共に計約400枚見つかった。金華山でのボランティアを通じて三上さんと交流があり、鹿の角を生かした工芸品などを手がける「鹿角(ろっかく)プロジェクト」が出版を企画。クラウドファンディングなどで資金を集め、今年3月に完成した。
■貴重な文化資産
プロジェクトを展開する一般社団法人サステナブルデザイン工房(山形県最上町)の押切珠喜代表理事(63)は「三上さんの人柄のおかげで復旧活動を続けられたので喜んでもらいたかった。芸術作品としてだけでなく、文化的資産として残せる貴重な資料だと思う」と語った。
三上さんは「こんなに立派な写真集を作ってもらえるなんて夢にも思わず、お迎えが来る前に生きた証しを残してもらったようだ。シカやサルの生活を知ってほしい」と話す。
写真集「霊島 金華山の鹿たち」はB5判、94ページで1000部制作。石巻市のヤマト屋書店や金港堂書店などのほか、鹿角プロジェクトのオンラインショップで購入できる。2750円。
<発刊記念、30日に三上さん「お話し会」>
写真集発刊を記念して、プロジェクトを企画した一般社団法人サステナブルデザイン工房(山形県最上町)が30日、三上さんが写真集について語る「お話し会」を開く。会場は同市蛇田上中埣94の8の「サスデコ・蛇田拠点」。同市蛇田のスパイスガーデン駐車場隣。午後3~5時。無料だが予約が必要。連絡先は同工房の押切さん090(6228)0535。
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写真集「霊島 金華山の鹿たち」には、動物たちの生き生きとした姿を捉えた写真が、三上さんの証言とともに収められている。そのうちの4枚を紹介する。
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