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文化財を生かす 被災施設の奮闘(下) 守る 分散保管でリスク低減

骨格標本の3Dデータ化に取り組む山本さん。骨一つ一つを多方向から撮影し、モデル化する

 石巻文化センターの後継施設に位置付けられた石巻市博物館は2021年11月、同市開成に整備されたマルホンまきあーとテラス(市複合文化施設)内に開館した。

 開成地区は東日本大震災時の津波被害が少なく、豪雨災害のリスクも低い。文化センターでは1階にあって津波に襲われた収蔵庫を、博物館は2階に置く。

■多くのハードル

 災害への備えは進んだが、万全ではない。火災などが発生すれば、所蔵資料が根こそぎ失われる可能性もある。市博物館学芸員の泉田邦彦さん(34)は「調査データの分散保管も考える必要がある」と強調する。

 分散保管は一部で実現しつつある。博物館は22年、所蔵するアイヌ民族資料の調査を北海道白老町の国立アイヌ民族博物館と合同で始めた。調査結果は両館が共有する。災害などでどちらかのデータが消失しても、もう片方がバックアップの役割を果たす。

 ただ、一般的な所蔵品の場合、分散保管には著作権などの課題もある。泉田さんは「資料のデータ化やその公開には超えるべきハードルが多い」と指摘する。

 資料が失われる可能性は震災のような未曽有の災害に限らない。

 震災の津波で全壊し、20年7月に再開した同市鮎川浜のおしかホエールランド。石巻地方で震度6弱を観測した22年3月の福島県沖地震で、展示の目玉であるマッコウクジラの骨格標本の支柱の一部が破損し、左右のあごの付け根部分などが破損した。

■3Dデータ化へ

 施設は所蔵する骨格標本の3Dデータ化に乗り出した。デジタルカメラであらゆる角度から撮影し、専用ソフトで3Dモデルを作る。これまでに標本6種の頭骨の作業を終えた。今後ははく製や捕鯨道具などの資料もデータ化を計画する。

 撮影枚数は頭骨一つで約1500枚。業務の合間に少しずつ進める。担当する学芸員山本龍治さん(29)は「途方もない作業だ」と苦笑する。

 山本さんには苦い経験がある。学生時代、研究の一環で北海道むかわ町の穂別博物館にあるクジラの骨格標本の頭頂部をデータ化した。その頭骨は18年の北海道胆振東部地震で大きく破損し、撤去された。「頭骨全体をデータ化していれば修復に生かせたかもしれない」。今も悔いが残る。

 22年に博物館法が改正され、博物館には資料のデジタル・アーカイブ化が求められるようになった。山本さんは「データを残しておけば災害などで破損しても元の姿を確認できる。各地で3Dデータを作る流れが生まれればいい」と願う。

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